オーダーメードのがんワクチン療法で成果、6割で再発なし

バイオ医薬品開発の独ビオンテック(Biontech)は5日、同社が開発中のオーダーメードがんワクチン「IVAC MUTANOME」を用いた皮膚がんの治験で明確な薬効が確認されたことを明らかにした。他の幅広いがんにも適用できる可能性があり、がん治療のあり方を大きく変える可能性があると期待を示している。治験の成果は科学誌『ネーチャー』(オンライン版)で同日、公開された。

同社は進行した段階にある皮膚がん患者13人を対象に第1層臨床試験(フェーズ1=3段階ある治験の第1段階)を実施。治療から23カ月が経過した現在も6割強の8人でがんの再発が起きていない。

ビオンテックでは各患者のがん細胞の遺伝子を正確に分析したうえでがん細胞の変異を個々に特定。これにより標的を絞り込んで、各人に見合ったワクチンをDNA(遺伝情報を保持する物質)の情報を写し取るメッセンジャーRNA(リボ核酸)をベースに作製する。

同社の創業者であるウグル・サヒン(Ugur Sahin)社長はすべての患者でワクチンの複数の標的に対する免疫反応が起きた」と指摘。「この事実からは、それぞれの患者が持つ免疫システムを幅広いがんの制圧に投入することが原理的に可能だ、との結論を引き出せる」と述べ、将来的に様々ながんの治療にIVAC MUTANOMEを投入できるとの見方を示した。

がん免疫治療では近年、免疫細胞の攻撃力をがんが抑え込むことを阻害する「免疫チェックポイント阻害剤」というタイプの抗がん剤が脚光を浴びている。ただ、免疫チェックポイント阻害剤が効果を発揮するのは、がん細胞に対する特定の免疫反応を持つ患者に限られるため、治療の成功率が20~30%にとどまる。

IVAC MUTANOMEでは患者各人に見合ったワクチンを作製するため、高い治療効果が期待されている。ビオンテックは今後、治験の対象を様々ながんに広げていく計画だ。

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