特定の被用者が勤務中に犯罪行為を行った具体的な容疑がある場合、雇用主は真相を解明するために被用者のプライベートな個人情報を収集し、解雇などの処分を下すことができる。これは連邦データ保護法(BDSG)32条1項に記されたルールである。では、犯罪行為の疑いはないものの、被用者としての義務に違反している具体的な容疑がある場合も雇用主は当該被用者の個人情報を収集できるのだろうか。この問題をめぐる係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が6月の判決(訴訟番号:2 AZR 597/16)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は抜き型メーカーで抜き型製造に携わる社員が同社(A社)を相手取って起こしたもの。原告は2014年に何度も病欠し、2015年1月20日以降は病気を理由に全く出社しなかった。医師が発行する労働不能証明書は提出していた。
A社の経営者は15年5月29日、原告の息子が2013年に設立したM社が、A社の顧客に宛てた電子メールを入手した。メールには原告が作製した抜き型を安値で販売する旨が記されていた。
A社はこれを受けて探偵会社に委託して情報収集を開始。同探偵会社の職員は6月3日、原告がM社で働いている現場を目撃した。
これを受けA社は原告に説明を求めたものの、原告は回答を拒否。A社は6月11日付の文書で原告に即時解雇を通告するとともに、念のために解雇予告期間を設定した16年1月末付の通常解雇も通告した。
原告はこれに対し、M社で働いた事実はないと主張し、解雇無効の確認を求める裁判を起こした。
2審のバーデン・ヴュルテンベルク州労働裁判所は原告勝訴を言い渡したものの、最終審のBAGは、被用者のプライベート情報は当該被用者が犯罪行為を行った場合だけでなく、被用者としての義務に違反した場合も収集できるとの判断を示して、2審判決を破棄し、裁判を同州労裁に差し戻した。
判決理由のなかでBAGの裁判官は、BDSG32条1項に基づく個人情報収集の権利を犯罪容疑がある場合に限定し、被用者としての義務違反への適用を認めないと欧州連合(EU)データ保護指令(Directive 95/46/EC)に抵触することになると指摘。EU法との整合性を保つためにはBDSG32条1項について、義務違反の場合にも個人情報の収集が認められると解釈しなければならないとの判断を示した。
バーデン・ヴュルテンベルク州労裁はBAGが示したこの判断に基づいて裁判をやり直すことになる。つまり、被告が探偵を通して入手した原告の個人情報を裁判証拠に採用したうえで、審理を行い判決を下すことになる。