被用者の監視で最高裁判断

従業員の代表機関である事業所委員会(Betriebsrat)は業務の多くの事柄を雇用主と共同で決定する権利(Mitbestimmungsrechte)を持つ。これは事業所体制法(BetrVG)87条に定められたルールで、同条1項第6規定には技術的な監視手段の導入も共同決定権の対象になると記されている。では雇用主と事業所委が共同決定すれば、被用者の仕事ぶりを監視するための技術的な手段を無制限に導入できるのだろうか。この問題をめぐる係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が4月の決定(訴訟番号:1 ABR 46/15)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。

裁判は複数の支店を持つ保険会社の全体事業所委員会(GBR、会社全体の事業所委員会)が同社を相手取って起こしたもの。雇用主は業務効率が支店ごとに大きく異なることから、低効率の支店の効率を引き上げて各支店の効率を平準化するための手段として、被用者各人の仕事ぶりを詳細に把握・分析するITシステムを導入しようとした。

これに対しGBRが異議を唱えたため、調停所(Einigungsstelle)が設置された。

調停所はBetrVG76条2項で定められた機関で、経営者と事業所委員会の意見の対立を解決するために設立する。両者の取り決めで常設機関とすることもできる。メンバーは経営者と事業所委がそれぞれ同数を任命。またこれとは別に、中立の立場の人物1人を両者の合意で議長に任命する。

調停所の決議は多数決で採択する。議長は原則として決議に加わらないものの、経営者と事業所委側の決議案がともに過半数に届かない手詰まり状況へと陥った場合は、議長も決議に加わる。

被告企業の調停所ではGBRと経営者側の委員の意見が対立。議長が経営側を支持したことから、同ITシステムの導入が可決された。

GBRはこれを不当として提訴。最終審のBAGはこの訴えを認める決定を下した。決定理由で裁判官は、業務効率を平準化するために各被用者の業務効率を把握することは雇用主の正当な利害だとしながらも、ITシステムによる仕事ぶりの全面的な監視は人格権の侵害に当たり、被用者の「人格の自由な展開」の保護・促進を雇用主と事業所委員会に義務づけたBetrVG75条2項の規定に抵触すると言い渡した。

裁判官はまた、無作為抽出方式で仕事ぶりを監視するのであれば、人格権侵害の度合いが弱く、同規定に抵触しないとの判断も示した。

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