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2017/11/29

総合 - ドイツ経済ニュース

対中国で新たな問題、外資の意志決定に党の介入懸念

この記事の要約

中国の2つの経済政策がドイツと欧州連合(EU)の大きな懸念材料となっている。ひとつは外資系企業に対する政府・共産党の統制強化、もうひとつは東欧地域に対する中国の影響力の拡大だ。前者は欧州企業の中国事業をこれまで以上に難し […]

中国の2つの経済政策がドイツと欧州連合(EU)の大きな懸念材料となっている。ひとつは外資系企業に対する政府・共産党の統制強化、もうひとつは東欧地域に対する中国の影響力の拡大だ。前者は欧州企業の中国事業をこれまで以上に難しくし、後者はEUの亀裂を深め結束力を弱める恐れがある。早急な対策が求められるものの、打つ手は少ない。

在中国ドイツ商工会議所(AHK中国)は24日、ドイツ企業の現地完全子会社に対し中国共産党が影響力を強めようとしているとの声明を発表した。同国の権力を握る共産党を名指しで批判するのは異例で、注目を集めている。

中国の会社法では共産党員が社内に細胞(党の末端組織)を設立することが認められている。現地企業と外資の合弁や外資系企業も例外ではない。

同規定はこれまで◇党員が勤務時間外に党活動をするための部屋を提供する◇党の活動に参加する党員に対し勤務を免除する――といった形で実施されてきた。企業にとっては負担であるものの、許容範囲の枠内に収まっていた。

だが最近は、企業の意思決定に対し影響力を行使しようとする動きが強まっている。『フランクフルター・アルゲマイネ』紙によると、黒竜江省政府は取締役会の議事日程を党細胞が事前に検閲・承認することを盛り込んだ法案を作成したという。

同省で合弁会社を運営する欧州航空機大手エアバスは工場に党細胞を設立することを求める州政府の要請を受け入れた。広報担当者はメディアに対し、取締役会に対しては「助言的な機能」を果たすにとどまっていると述べ、強い介入はないとの見解を示唆した。

中国の習近平国家主席(党総書記)は10月の党大会で、経済に対する党の統制を大幅に拡大する方針を打ち出した。このため外資系企業の間には、共産党が細胞を通して事業拠点の選定や生産量の決定に介入するようになるとの懸念が広がっている。

AHK中国はこれを踏まえ、「企業の自由な決定は技術革新と成長の基盤だ」と指摘。「外資系企業に対する影響力の行使がさらに強まるようであれば、ドイツ企業が中国市場から撤退する、あるいは投資決定を見直すことを排除できない」として、中国政府と共産党をけん制した。

ただ、中国事業から実際に撤退できる企業は少ないとみられる。同国市場を開拓していくうえで大きなマイナスとなるためだ。

例えば独自動車メーカーの1-9月期の世界販売台数に占める中国の割合をみると、BMWグループは24.1%、メルセデスは25.8%、アウディは30.3%に達した。中国は世界最大の自動車市場であるうえ、成長の余地もなお大きいことから、同国生産を全面的に停止し輸出に切り替えることは事実上、不可能だ。この事情は他の分野の企業にも当てはまる。

ドイツ政府やEUは中国に有効な圧力をかけるためのカードを持っていないことから、知財権問題などと同様に事態の改善は期待できない状況だ。

中国と東欧は蜜月関係

一方、ハンガリーの首都ブダペストで27~28日の2日間、開催された東欧16カ国と中国の首脳会議(16+1首脳会議)では、中国の李克強首相が東欧のインフラ整備に30億ドル規模の融資を行う意向を表明した。最大の目玉はブダペストとセルビアのベオグラードを結ぶ総延長370キロの鉄道敷設事業だ。同鉄道は中国遠洋運輸集団が昨年買収したギリシャのピレウス港と接続され、中国製品の西欧向け輸出で大きな役割を演じることになっている。習主席の提唱で立ち上げられた「一帯一路」構想の一環をなす。

中国の資本で東欧の経済開発が進むことに対しては西欧諸国やEU内に強い警戒感がある。東欧諸国への中国の影響力が強まり、EUが同国に対して批判的な政策を取りにくくなる恐れがあるためだ。欧州議会通商委員会のベルント・ランゲ委員長は、巨額投資を通して中国がEUの政策に対する「影響力を買い取る」ことに懸念を表明した。外交・安全保障問題のシンクタンクである欧州外交評議会(ECFR)は、ギリシャとハンガリーは中国からの投資を受けた後、同国に対する批判を控えるようになったと指摘する。

東欧諸国は共産圏の崩壊後、EUの助成金などをてこに経済開発を進めてきた。だが、EUは人権や法の支配など民主主義の原則の順守を加盟国に要求。これに抵触するハンガリーやポーランドに対し、助成金削減の“脅し”を通して掣肘(せいちゅう)を加えてきた。

制度的には民主制だが実質的には自由が制限される「非自由主義的民主主義」を信奉するハンガリーのオルバン首相などはEUの“干渉”を排除したいと思っている。このため中国の資金提供は渡りに船であり、これを利用してEUからの政策の自立性を高めたい考えだ。

中国との間で思惑が一致している現在、東欧諸国に対する同国の影響力を弱めることは難しい。欧州議会の保守系会派である欧州人民党グループのマンフレート・ヴェーバー院内総務はEUが内部で対立すると自意識を高める中国に対し独自の政策を貫徹できなくなると懸念を表明した。