嫌疑解雇のハードル高し

被用者が重大な不正を行った疑いがある場合、雇用主は通常、解雇を検討する。だが、実際に解雇するためのハードルは高い。そんな印象を与える判決をラインラント・ファルツ州労働裁判所が昨年7月に下したので、ここで取り上げてみる(訴訟番号:5 Sa 49/17)。

裁判は工具メーカーの工員が同社を相手取って起こしたもの。同工員は副業でワイン農家を営んでいる。

同工員は右下腿の怪我を理由に2016年4月26日から欠勤した。医師が発行する労働不能証明書(通称ゲルベシャイン)を提出していたが、人事部長が5月初旬に、作業着を着た原告を自宅の作業場で見かけたことから、雇用主は仮病を疑い、6月1日から3日の3日間、探偵を雇って素行調査を行った。調査の結果、同工員がワイン畑に出て作業していることなどが確認された。

同工員は同5日、ゲルベシャインを新たに提出して欠勤の延長を伝えたことから、雇用主は13日付の文書で即時解雇を通告。即時解雇が裁判所から認められない場合に備えて、解雇予告期間を設定した通常解雇(解雇日17年1月31日)も通告した。また、探偵費用5,032.34ユーロの支払いを原告工員に要求した。

原告はこれを不服として提訴。1審のコブレンツ労働裁判所はこれを認める判決を下し、2審のラインラント・ファルツ州労裁も同様の判決を下した。判決理由で同州労裁の裁判官はまず、仮病や病気回復を遅らせる被用者の行為が即時解雇の理由になり得ることを指摘したうえで、原告が47年に及ぶ勤続期間のなかで警告処分を一度も受けずに勤務してきたことを指摘。原告が無処分の長期勤務を通して築き上げてきた同社に対する信頼・忠誠は一度の疑惑で破壊されないとして、即時解雇は行き過ぎた処分だとの判断を示した。あらゆる事情を総合的に考慮した結果、雇用関係の継続が不可能と判断される場合を除いて即時解雇はできないことが、民法典(BGB)626条に規定されている。

裁判官は通常解雇の妥当性についても無効との判断を示した。医師が発行したゲルベシャインには証拠能力があると指摘。ゲルベシャインの妥当性を覆すためにはそれに見合った証拠が必要だが、被告は裁判でそうした証拠を提示できなかったと言い渡した。

最高裁への上告は認めておらず、原告は最終的に勝訴した。探偵費用を負担する義務もない。

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