政府の走行禁止回避策に疑問符、裁判所が効果を認める保証なし

2018年10月10日発行 No.1206号

ディーゼル車の走行禁止を回避するために独政府が打ち出した対策方針に多くの疑問が浮上している。対策方針に法的強制力はなく、あくまで自動車メーカーの任意の協力が必要不可欠であるうえ、仮に完全履行したとしても十分な効果が上がるかが不透明なためだ。政府方針を実施すれば走行禁止が不要になるとの判断を裁判所が下す保証もなく、同方針は絵に描いた餅に終わる懸念がある。

政府・与党は2日、都市の大気浄化に向けた政策方針で合意した。窒素酸化物(NOx)濃度の許容上限を1立方メートル当たり40マイクログラム(年平均)と定めた欧州連合(EU)規制に抵触する都市が計65カ所に上っているためだ。これらの都市ではディーゼル車の走行が禁止される恐れがあり、すでにシュツットガルトやフランクフルトについては裁判所が走行禁止を命じる判決を下した。走行禁止の開始時期はシュツットガルトで来年1月1日、フランクフルトで同2月1日と目前に迫っている。

政府はそうした事態を回避するために、(1)NOx濃度規制に違反するすべての都市を対象とする措置(2)NOx濃度が50マイクログラムを超える14都市を対象とした措置――という二段階の対策をまとめた。

(1)は◇当該都市当局が保有する3.5トン以上の車両◇当該都市と周辺地域に住む手工業者と配達業者の車両(2.8~7.5トン)――に排ガス浄化装置(尿素SCRシステム)を後付けする場合、国が補助金を交付するというもので、この措置を実施すれば、NOx濃度50マイクログラム以下の都市では走行禁止措置を導入しなくても40マイクログラム規制を遵守できると政府はみている。

濃度50マイクログラム超の都市では旧型ディーゼル車の保有者(周辺地域からの通勤者を含む)が◇尿素SCRシステムの後付けを自動車メーカーの費用負担で行う◇優遇下取り価格で車を買い替える――のどちらかを選択できるようにする。対象となるのは走行1キロメートル当たりのNOx排出量が270ミリグラム以上の車両。旧型車両に該当する欧州排ガス基準「ユーロ4」「ユーロ5」の対応車であっても同270ミリグラム未満の車両は走行禁止の対象から除外する。優遇下取り措置で購入できる車両には中古車も含まれる。後付け費用はメーカーに全額負担させる意向だ。

独メーカーは優遇下取り措置に同意し、すでに下取りの上乗せ額を公表している。上乗せ額はダイムラーで最大1万ユーロ、BMWで同6,000ユーロ、フォルクスワーゲン(VW)で4,000~5,000ユーロとなっている。外資系メーカーも同様のキャンペーンを打ち出しており、ルノーは14都市以外の地域であっても最大1万ユーロの上乗せサービスを行う。

ただ、下取り価格が上乗せされても、これを利用して車両を購入する消費者は相当額の自己負担をしなければならない。旧型ディーゼル車を持つ14都市の住民のなかにはそうした負担をできない人もすくなくない。

「浄化装置後付けの効果は不十分」

これらの消費者は尿素SCRシステムの後付けを選択せざるを得ないが、後付けサービスを受けられる保証はない。技術的に可能な車両でなければ後付けできないという問題があるためだ。

また、技術的に後付けが可能であってもメーカーが費用を負担するかどうかも定かでない。BMWとオペルは負担を明確に拒否。VWは費用の8割を引き受ける意向を示しているものの、他のメーカーも同様の措置を取ることを前提としていることから、BMWなどが負担を拒否している以上、実施しない可能性が高い。

さらに、メーカーが仮に後付け費用を負担し、後付けが行われたとしても、当該都市のNOx濃度が大きく下がる保証はない。背景には、尿素SCRシステムは250度以上の高温でないと浄化機能を十分に発揮しないという事情がある。停車が多い都市部での走行ではエンジンが温まりにくいため、NOxを十分に浄化できずに排出することが多いのだ。特に冬季はその傾向が強まる。

メーカーの優遇下取りについても、その効果に疑問が投げかけられている。連邦環境庁(UBA)のマリオン・ヴィヒマンフィービヒ大気部長は週刊誌『シュピーゲル』に、NOx濃度低減に向けた政府と自動車業界の昨年夏の合意後にメーカーが実施した優遇下取り措置の大気浄化効果は小さかったと指摘。新たな優遇下取りを実施しても「(EUの)許容上限値を2020年までに遵守することはできない」との見方を示した。メーカーが行う優遇下取りでは排ガス量の多い大型モデルほど下取りの上乗せ額が多くなることも問題だとしている。ユーリッヒ研究センターのフランツ・ローラー研究員も『南ドイツ新聞』に、優遇下取りと後付けだけでは濃度規制を遵守できないとの見方を示した。

連邦行政裁判所は2月、都市の大気汚染をめぐる裁判で判決を下し、ディーゼル車の走行禁止がNOx基準順守の唯一の手段であるならば、走行禁止はやむを得ないとの判断を明示した。政府・与党はこれを受け、走行禁止以外の方法でNOx濃度を低減できれば走行禁止を回避できると判断。今回の方針を取り決めた。

だが、行政機関である政府の方針を司法機関である裁判所が適切と評価するかは定かでない。専門家から効果に疑問が投げかけられていることもあり、裁判所が今後も走行禁止判決を下す可能性は排除できない状況だ。ベルリン行政裁判所は9日の判決で、同市内に旧型ディーゼル車の走行禁止区間を設置するよう言い渡した。

今年はマインツ、ボン、ケルン、エッセン、ゲルゼンキルヒェン、ダルムシュタット、ヴィースバーデンのNOx規制違反をめぐる裁判でも判決が下される見通し。これらの裁判の判決次第では、政府は方針見直しを余儀なくされる可能性がある。

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