残業の証明義務は誰にあるのか

残業をしたと主張する被用者が、残業代の支払いを求めて裁判を起こすケースがある。その場合、残業の有無を証明する義務は雇用主側にあるのだろうか、それとも被用者側にあるのだろうか。この問題に絡む係争でラインラント・ファルツ州労働裁判所が5月に判決を下したので、ここで取り上げてみる。

裁判は2014年10月1日から16年7月31日にかけて被告企業で勤務していた社員が起こしたもの。同社員が退社した際、被告は労働時間口座に貯まっていた残業時間を金銭に換算して支給した。

これに対し原告は、支給された残業代は2016年分のみで、2015年4月、5月、6月、10月、11月、12月の分は支払われていないと主張。その分も支払うよう要求し提訴した。

原告は一審で敗訴し、二審のラインラント・ファルツ州労裁でも判決は覆らなかった。判決理由で同州労裁の裁判官はまず、何月何日に通常勤務時間を超えてどれだけ勤務したかについて被用者側が情報を提示しなければ雇用主側は残業の有無について争うことができないとした最高裁(連邦労働裁判所=BAG)の過去の判決(訴訟番号:5 AZR 347/11、5 AZR 122/12 Rn. 9)を指摘。原告社員はそうした情報を裁判で提示しなかったと言い渡した。

また、実際に通常勤務時間外に仕事をしたとしても、それが残業として認められるのは、雇用者側の指示、同意、容認ないし、残業が必要不可欠だったという事情があった場合に限られるとしたBAGの別の判決(5 AZR 122/12 Rn. 14 mwN)を指摘した。原告はこれについても証明できなかったことから、敗訴した。

裁判官はBAGへの上告を認めたおらず、判決は確定した。