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2019/1/9

総合 - ドイツ経済ニュース

景況感悪化の業界が大幅増、通商摩擦やブレグジットがリスク要因に

この記事の要約

ドイツ経済は今年、おとそ気分の昨年と違い、重苦しい雰囲気で新年を迎えた。景気減速が鮮明化しているうえ、先行き見通しも不透明なためだ。昨年から続く通商摩擦や新興国経済の不調に加え、3月に予定される英国の欧州連合(EU)離脱 […]

ドイツ経済は今年、おとそ気分の昨年と違い、重苦しい雰囲気で新年を迎えた。景気減速が鮮明化しているうえ、先行き見通しも不透明なためだ。昨年から続く通商摩擦や新興国経済の不調に加え、3月に予定される英国の欧州連合(EU)離脱が貿易大国ドイツの大きなリスク要因となっている。主要経済研究所の大半は国内総生産(DGP)成長率の低下を予想する。

独GDP成長率は2014年に前年の0.5%から2.2%へと上昇し、17年まで2%前後の高い伸びを確保してきた。18年も第2四半期(4~6月)までは高成長が続いたものの、第3四半期(7~9月)にマイナス0.2%(前期比)へと転落。14四半期(3年半)ぶりのマイナス成長となった。輸出不振のほか、乗用車の排ガス試験方式の変更を受けて新車生産が滞ったことが響いた格好だ。

景気の不調は現在も続いており、Ifo経済研究所の独企業景況感指数は9月から4カ月連続で悪化。財界系シンクタンクIWドイツ経済研究所が国内の48業界団体を対象に実施した恒例の年末アンケート調査では、業界の景況感が「悪化した」との回答が前年の2団体から21団体へと急増。「改善した」は26団体から7団体へと落ち込んだ。自動車、電機、機械、化学など主要製造業の団体はすべて「悪化した」と回答している。自動車業界では排ガス試験方式の変更が追い打ちをかけており、そのしわ寄せは素材やリース、銀行など関連業界にも及んでいる。

「19年は生産高ないし実質売上、利益が増加すると思いますか」との質問では「増加」が28団体に上り、「減少」(10団体)を大きく上回った。ただ、昨年の調査では「増加」が33団体、「減少」が2団体となっており、経済界全体の先行き見通しは昨年よりも悪化している。

暗い影を落としているのは英国のEU離脱(ブレグジット)と米国と中国、EUの通商摩擦だ。米中が昨年開始した報復関税合戦は米車への輸入関税を中国が暫定的に引き下げたことで悪化がひとまず回避されたものの、問題は解決しておらず、今後再び激化する可能性を排除できない。中国はインフラ投資を通したこれまでの成長モデルが限界に達していることもあり、GDP成長率は低下が続きそうだ。

通商摩擦の影響は米経済にも出ている。調達コストの上昇を受けて製造業が悲鳴を上げ始めおり、自動車大手のゼネラル・モータース(GM)は11月に大規模な人員削減方針を打ち出した。こうした動きが広がると、米国の景気が低迷する恐れがある。

グローバル化を追い風に経済成長を続けるドイツにとって、二大大国である米中の景気減速は大きなマイナス材料だ。政府の経済諮問委員会(5賢人委員会)は11月の秋季経済予測のなかで、2019年は外需がGDP成長率を0.3ポイント押し下げるとの見方を示した。

ハードブレグジット対策、ほとんどの企業は不十分

英国が通商協定を締結せずにEUから離脱する「ハードブレグジット」の可能性が高まっていることも大きな懸念材料となっている。同国は米仏中に次ぐ4番目に大きな輸出先国(17年輸出高854億ユーロ)であるためだ。特に自動車・部品の輸出高は301億ユーロと、全体の35%を占める。

英国に工場を持つ独自動車大手BMWは最悪の事態に備えてすでに◇英工場の休業を例年の夏から19年はブレグジット直後の4月へと前倒しする◇必要がある場合は部品を空輸する◇ブレグジットに対応するためのITシステム開発◇従業員とサプライヤーを対象とする研修――などの対策を取る。

だが、こうした準備を進める企業は少ない。英国向けに輸出を行う独企業を対象にIWが実施したアンケート調査では、ハードブレグジット対策を「まったく行っていない」との回答が28.8%、「ほとんど行っていない」が43.6%に達した。「準備度が高い」との回答は2.7%にとどまっており、ハードブレグジットが現実になった場合はほとんどの企業が大きな痛手を受ける見通しだ。

Ifoのクレメンス・フュスト所長は経済紙『ハンデルスブラット』に、ハードブレグジットの場合、ドイツのGDP成長率は今年0.5ポイント押し下げられると指摘。ブレグジットは短期的にみてドイツの最大の景気リスク要因になるとの見方を示した。英国が通商協定を締結してEUから離脱する「ソフトブレグジット」の場合はGDPの押し下げ幅が0.14%にとどまるとしている。