自動車大手の独フォルクスワーゲン(VW)グループは12日、米同業フォードとの協業分野を拡大すると発表した。両社の戦略協業合意の第二弾として、新たに自動運転技術と電気自動車(EV)の分野でも手を結ぶ。これによりシナジー効果を引き出し、コストを圧縮する意向だ。VWのヘルベルト・ディース社長は「協業のさらなる可能性を検討する」と述べ、フォードとの協力関係を一段と拡大することに意欲を示した。
VWとフォードは昨年6月、戦略協業の趣意書に署名した。共同プロジェクトを検討したうえで具体化していくというもので、今年1月には協業の第一弾として、世界的に需要の拡大が見込まれる中型ピックアップと小型商用車の開発・生産で協力することを取り決めた。
同分野の協業は順調に推移しており、両社は協業範囲を広げることにした。
自動運転分野では、フォードの自動運転技術開発子会社アルゴAIをVWとの合弁会社へと転換することを取り決めた。VWは3年以内に総額31億ドルをアルゴAIに出資する。まずは26億ドルを出資。そのうち現金は10億ドルで、残り16億ドルは自動運転技術開発子会社オートノモス・インテリジェント・ドライビング(AID)をアルゴAIに譲渡する形で支払う。アルゴAIはフォードからも6億ドルの追加出資を受けることから、時価総額は推定70億ドルを超えることになる。
VWが資本参加すると、アルゴAIの株式はVWとフォードの保有部分と、アルゴAI従業員向け報酬部分で構成されることになる。VWとフォードの出資比率は均等で、合計すると過半数を超える。
VWとフォードはアルゴAIが開発した技術を自社のモデルにそれぞれ投入する。米自動車技術会(SAE)が定める「レベル4」の自動運転車(運転をシステムに全面的に任せることが可能)を念頭に置いており、相乗りサービスや配達向けの需要を見込んでいる。
アルゴAIは米ピッツバーグに本社を置く企業で、従業員数は約500人。AIDを吸収すると約700人へと拡大する。独ミュンヘンにあるAIDの拠点はアルゴAIの欧州統括拠点となる。
車市場低迷でメーカー間の提携加速
EV分野の協業ではVWのEV専用車台「MEB」を用いてフォードが欧州市場向けの量産車1モデルを2023年に投入する。発売後6年以内に計60万台以上を販売する意向だ。MEBをベースとするさらなるモデルの欧州投入も検討する。
フォードが欧州市場向けEVをVWの車台を用いて生産する背景には、欧州連合(EU)の排ガス規制が強化されることがある。EUは走行1キロメートル当たりの乗用車と小型商用車の二酸化炭素(CO2)排出量を21年までに現在の平均130グラム以下から同95グラム以下に抑制する計画。30年には21年に比べ乗用車で37.5%、軽商用車で31%の引き下げを目指している。
同規制を遵守するためにはEVなど電動車の販売を大幅に増やす必要があるが、フォードはEVで出遅れていることから、VWの協力を仰ぐことにした。
欧州はフォードにとってかじ取りの難しい市場となっている。規制や顧客の嗜好が本国米国と異なるためだ。欧州市場に照準を合わせたモデルを開発してもコストを回収するのが難しく、欧州事業は構造的な赤字から抜け出せない状況だ。6月には欧州5工場を20年末までに閉鎖し、従業員1万2,000人を削減する方針を打ち出した。VWとの協業はEVに限らず、内燃機関車の分野でもコスト削減・回収効果が大きいと目されている。
VWはMEBをグループ外部の企業にも提供する方針を打ち出している。MEBを利用する車両が増えれば、規模の効果でコストを削減できるためだ。3月には外販の第一弾として、ドイツの小規模EVメーカーであるイーゴー・モバイルに提供することを明らかにした。
自動車業界では車両の電動・自動・IoT化とデジタル技術を活用した移動サービスの拡大を背景に、開発コストが急速に膨らんでいる。このため競合企業の連携が盛んになっており、独高級車大手のダイムラーとBMWは自動運転技術の開発と移動サービスの分野で手を組んだ。各社は市場の低迷を受けて収益力が低下していることから、提携の動きは今後さらに強まりそうだ。