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2019/7/24

総合 - ドイツ経済ニュース

日系企業の独社買収が活発化、件数で中国系抜く

この記事の要約

ドイツ企業を対象とする日系企業のM&A活動が活発化している。独コンサルティング会社オークリンスのデータをもとに『フランクフルター・アルゲマイネ』紙が報じたもので、中国系企業の件数を超えたという。オークリンスは2 […]

ドイツ企業を対象とする日系企業のM&A活動が活発化している。独コンサルティング会社オークリンスのデータをもとに『フランクフルター・アルゲマイネ』紙が報じたもので、中国系企業の件数を超えたという。

オークリンスは25%以上の資本取得をM&Aと定義して統計を取っている。それによると、ドイツ企業を対象とする日系企業のM&A(発表ベース)と日本企業を対象とするドイツ企業のM&Aは今年上半期に計18件に上り、前年同期の10件から80%増加した。内訳の詳細は明らかにしていないものの、その大部分ないしすべては日系企業を主体とするM&Aとみられる。

一方、ドイツ企業を対象とする中国企業のM&Aと中国企業を対象とするドイツ企業のM&Aは前年同期の18件から11件へと39%減少した。中国企業を対象とする独企業のM&Aはほとんどないし全くないとみられる。

日系企業による上半期の独企業買収(同)をみると、日立化成は再生医療等製品を受託製造するアプセス・バイオファーマを完全傘下に収めた。京セラはセラミック製品の製造・販売を手がけるエイチ・シー・スタルク・セラミックス(HCSC)と、フリアテック社のセラミック製造・販売事業を譲り受けた。日本電産もプレス機用周辺機器製造のズィステーメ・シュトイエルンゲンと大型精密減速機製造のデッシュ・アントリープステヒニクを取得している。

日本企業による買収は分野が多岐に渡っており、日立キャピタルは自動車レンタル・リース事業を展開するマスケ・フリートを完全買収。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は独信用協同組合系のDVBバンクから航空機ファイナンス関連事業を譲り受けた。このほか、ヤンマー、三協立山、富士フイルム、三和ホールディングス、住友電工も買収の発表を行っている。

日系企業がドイツで行う買収活動をみると、自社のポートフォリオを拡充する製品やサービスの取得や、販売チャンネルの獲得が主な狙いとなっている。このため比較的小規模な企業や事業をピンポイントで選んでおり、買収価格は全般的に小さい。買収計画を発表するプレスリリースには「本件が業績に与える影響は軽微です」といった一文が添えられるケースが多い。ドイツのメディアで大きく取り上げられることはない。

出資先の連携仲介でソフトバンクが存在感

そうしたなかで、このところ存在感を高めているのはソフトバンクだ。上半期は金融サービス大手ワイヤーカードの転換社債およそ9億ユーロを引き受けたほか、ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を中心とする企業連合を通して、観光客向けのアクティビティや博物館予約の仲介プラットホームを運営するスタートアップ企業ゲットユアガイドに4億8,400万ドルを出資した。ワイヤーカードは今月中旬、SVFの出資を受けるスタートアップ企業アウト・アインツ・グループ(自動車販売ポータル運営)と戦略協業すると発表している。

ソフトバンクは比較的低比率の資本参加を行うとともに、同社のネットワークに組み込んだ企業の連携を仲立ちするという事業モデルを採用している。出資先企業の成長を加速させ、リターンを増やす狙いがある。

中国系企業によるドイツ企業への出資は減少傾向にある。監査法人大手アーンスト・アンド・ヤング(EY)によると、昨年は35件(買収・出資手続きが未完了の案件を含む)となり、前年の54件から35%減少。過去最高となった16年(68件)に比べると49%縮小した。スイス農業化学大手シンジェンタと独ロボット大手クーカが中国資本に手に落ちたことを受けて欧州サイドに警戒感が広がったことのほか、◇中国政府が国外への資本流出に歯止めをかけるため国外買収に対する審査を厳格化した◇その結果、欧州企業の売り手が売却契約に際して高額な保証金の支払いを要求するようになった◇中国企業が買収対象を慎重に吟味するようになった――という事情がある。ただ中国政府は電動車やロボットなど計10分野で世界を主導する国になるという長期戦略「中国製造2025」を掲げていることから、ドイツなど先進国の企業を買収する動きは今後も続く見通しだ。