従業員数21人以上の企業は社員の異動前に、被用者の社内・事業所内代表機関である事業所委員会(Betriebsrat)にその情報を文書で通知したうえで、同意を取り付けなければならない。これは事業所体制法(BetrVG)99条1項に記されたルールである。では、人事異動により社員が複数の拠点でポストないし業務を兼任する場合、関係するすべての拠点の事業所委から承認を得なければならないのだろうか。それとも1つの拠点の事業所委の承認で足りるのだろうか。この問題に絡んだ係争で、最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が6月の決定(訴訟番号:1
ABR
5/18)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判は電気通信企業のR拠点を担当する事業所委が同社を相手取って起こしたもの。同社は2017年1月、社員Kを本社の部長に昇格させた。Kはこれに伴いR拠点の従業員に指示を出す立場に立った。
Kの昇格を本社の事業所委員会は承認したものの、R拠点の事業所委員会は、承認を拒否した。空きポストないし新設ポストの人事を決める場合、事業所委員会には事業所内の公募を要求する権利があり、公募なしで人事が決定された場合は拒否権を行使できるとしたBetrVG93条および同99条2項5の規定を根拠としてのことである。
これに対し同社は、R拠点の事業所委の承認は不要だとして、KにR拠点従業員に対する指示権を与えたことから、R拠点の事業所委が提訴した。
最高裁のBAGはこの係争で原告敗訴を言い渡したものの、複数の拠点でポストを兼任する人事は関係するすべての拠点の事業所委から承認を得なければならないとの判断を示した。関係する拠点の業務遂行に関与していれば、当該拠点に出向かず、もっぱら本社から指示を出すに過ぎないにしても、人事に対する当該拠点の事業所委の承認が必要になるとの判断だ。
ただ、裁判官は同時に、KがR拠点に指示を出すという「権限」を得たものの、R拠点の「ポスト」は得ていないことを指摘。空きポストないし新設ポストの人事に当たらないため、R拠点の事業所委にKの人事を拒否する権限はないと言い渡した。