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2019/12/18

総合 - ドイツ経済ニュース

独が米の「内政干渉」を批判、ガスパイプライン関与企業への制裁法案で

この記事の要約

ロシア産天然ガスをバルト海経由でドイツに輸送する計画「ノルドストリーム2」の関与企業などに制裁を科す法案を米下院が11日、可決した。

ノルドストリーム2はバルト海を通ってロシアとドイツ北部を結ぶ全長1,200キロメートルのパイプラインで、2011年に開通した「ノルドストリーム1」に並行する形で設置される。

欧州連合(EU)欧州委員会のフィル・ホーガン委員(通商担当)は同法案が米下院で可決されたことを受けて、欧州企業に対する制裁には原則として反対だとしながらも、ノルドストリーム2に対しては透明で差別のない運営を期待したいと発言。

ロシア産天然ガスをバルト海経由でドイツに輸送する計画「ノルドストリーム2」の関与企業などに制裁を科す法案を米下院が11日、可決した。上院でも近く、可決され、トランプ大統領の署名を経て施行されるのは確実の情勢だ。独ハイコ・マース外相は12日、「欧州のエネルギー政策は米国でなく欧州で決定する。自国の領域外に効力を持つ制裁をわが国は原則的に認めない」と批判した。

ノルドストリーム2はバルト海を通ってロシアとドイツ北部を結ぶ全長1,200キロメートルのパイプラインで、2011年に開通した「ノルドストリーム1」に並行する形で設置される。輸送能力は両パイプラインとも年550億立方メートル。ノルドストリーム2の総工費は95億ユーロで、ロシア国営ガスプロムのほか、独ユニパー、ヴィンタースハルDEA、英蘭系ロイヤル・ダッチ・シェル、墺OMV、仏エンジーが出資している。

米国は党派の違いを超えて、ノルドストリームをロシアの地政学的な戦略に基づくパイプラインと位置づけており、米政府はこれまで、ノルドストリーム2に関与する企業への制裁をちらつかせて中止を求めてきた。

それでもパイプライン敷設の動きが止まらず、完成が目前に迫っていることから、今回の制裁法案が作成された。パイプラインの敷設に関与する企業とその経営者、主要株主に入国禁止、ビザの取り消し、資産凍結などの制裁を科すことを規定している。

制裁の対象となるのはパイプラインの敷設を行う企業で、スイスのオールシーズなどが該当するもようだ。ノルドストリーム2の出資会社は対象となっていない。制裁の照準を敷設会社に合わせることで建設を中止に追い込む狙いだ。

欧州委は様子見

欧州連合(EU)欧州委員会のフィル・ホーガン委員(通商担当)は同法案が米下院で可決されたことを受けて、欧州企業に対する制裁には原則として反対だとしながらも、ノルドストリーム2に対しては透明で差別のない運営を期待したいと発言。当面は情勢を見守る意向を示した。

EUは14年のウクライナ危機を受けて、エネルギーのロシア依存引き下げと供給源の多様化を目指している。ポーランドなど東欧の加盟国はノルドストリーム計画にロシアの地政学的な圧力を感じており、ロシアとともに同計画を推進するドイツとは温度差がある。

ロシア産天然ガスは長年、陸上パイプライン経由で西欧に輸出されてきた。具体的には(1)ベラルーシ、ポーランド経由(2)ウクライナ、スロバキア、チェコ経由――で供給されてきた。だが、天然ガスの価格交渉でウクライナがロシアと対立するとロシア産ガスを抜き取り、そのしわ寄せで西欧向けのロシア産ガスの供給量が目減りするという問題がたびたび発生。ロシアは供給ルートの多元化を通してウクライナを迂回して西欧に供給できる体制の構築に乗り出した。ウクライナにとってはガスのトランジット料金収入が減少・枯渇するほか、ロシアと対立した際に西欧向けのガスを抜き取れなくなる恐れがあり、危機感が大きい。

ドイツは当初、ノルドストリーム2を純粋に経済的なプロジェクトと位置づけてきたが、メルケル首相は昨年、米国や他のEU加盟国の圧力を受けて「地政学的な要素」があることを認めた。

それでも同パイプラインに固執するのは、原子力と石炭発電の全廃方針を決めたためだ。これらの電源の穴埋めは主に再生可能エネルギーで行うものの、再生エネは電力供給が不安定なことから、石炭に比べて二酸化炭素(CO2)の排出量が少ない天然ガスは長期的に、エネルギーミックスの必要不可欠な構成要素にとどまる。

米国がノルドストリーム2の実現阻止を目指す背景には地政学的なリスクのほか、米国産の天然ガスを欧州に売り込みたいという経済的な思惑がある。トランプ米大統領は昨年、欧州委員会のユンケル委員長(当時)と会談し、米国産液化天然ガス(LNG)の欧州輸出拡大に向けて交渉を開始することを取り決めた。米国産LNGはロシア産天然ガスに比べ割高なため、ロシアからの供給が増えると米国産を欧州で販売しにくくなる。