新型コロナウイルスの感染がドイツで初めて確認されてから1週間以上が経過した。感染者数は4日までに10人に拡大したものの、そのうち8人は自動車部品大手ベバストの社員と家族、残り2人は中国からの帰還者で、全員が隔離されており、これまでのところ同国で流行の兆しは出ていない。ただ、流行の中心地・中国では感染拡大を食い止めるために、企業に社員の出勤見合わせを指示する動きが広まっており、長期化すると世界への依存度が高いドイツ経済に大きなしわ寄せが出る懸念がある。
ベバストは1月28日、ミュンヘン近郊のシュトックドルフ(シュタルンベルク郡)にある本社を閉鎖した。本社勤務の社員4人と本社を訪問した中国人社員1人が新型コロナウイルスに感染したことが確認されたためだ。
ベバスト本社では1月第4週に研修が行われた。その時は誰も発症していなかったが、中国人社員は帰国の機内で発症。上海の病院で感染が確認された。
この事実を知った同社は保健所に速やかに通報するとともに、接触した約40人の社員全員に情報を伝えた。そのうち7人が感染していることがこれまでに確認されている。このほか社員の子供1人が感染しており、シュタルンベルク郡の感染者数は8人となった。ドイツ国内で感染した人は同郡の在住者に限られる。
ベバストは感染拡大を防ぐために27日、本社の社員を自宅・モバイル勤務に切り替えたほか、中国への出張と中国からの出張を差し当たり2週間、禁止した。28日にはさらに、2月2日まで◇本社を閉鎖する◇本社社員の出張を、国内外を問わず全面的に禁止する――措置を追加した。このうち本社閉鎖については11日までの計14日間へと延長した。潜伏期間を最大14日とみる専門家の指摘を踏まえて決めた。本社社員を自宅・モバイル勤務扱いに切り替えたものの、業務に支障は出ていないという。
顧客の要求を満たすために社員およそ20人は4日から任意で本社に出社し、ルーフシステムのテストとプロトタイプの作製を行っている。これら社員は全員、感染していないことを確認済みで、保健当局および従業員代表の事業所委員会の了承を得ているという。本社のすべての建物は消毒処理を済ませており、これらの社員が本社内で感染する可能性は低い。
ベバストは他の拠点の従業員のなかに感染者と接触した者がいないかどうかも調査した。本社の200キロ圏内にあるヘンガースベルクとシーアリングの従業員は接触の可能性を排除できなかったためだが、これまでのところ他拠点への拡大は確認されていない。
物流に打撃の恐れ
ドイツ政府は国防軍の輸送機を感染の震源地となった武漢に派遣し、124人を1日に帰国させた。そのうち2人で感染が確認されたことから、病院で隔離している。肺炎などの症状は出ていない。感染拡大を防ぐために、残り122人も14日間、軍の営舎内で隔離する。
一方、航空大手のルフトハンザ(LH)は29日、中国便の運航を全面的に見合わせると発表した。ルフトハンザ本体と傘下のオーストリア航空、スイス・インターナショナル・エアラインズで差し当たり2月9日まで停止。3日には北京便の停止期間を29日まで、南京、瀋陽、青島便を冬季ダイヤが終了する3月28日までそれぞれ延長することを明らかにした。香港便は運行している。
中国は「世界の工場」として部品や完成品を国内外向けに大量に生産するほか、巨大な市場としても世界経済で大きな役割を果たしている。このため計31ある省・自治区・直轄市の大半で出勤見合わせの当局の指示が企業に出されたことは物流に大きな影を落としている。ドイツの製造業では中国売上高が1日当たり6億ユーロに上る自動車を中心に大きな痛手を受けそうだ。サプライヤー大手ボッシュのフォルクマー・デナー社長は「(流行が)長期化しサプライチェーンが打撃を受けると生産に支障が出る」と明言した。中国で40工場を展開する競合ZFフリードリヒスハーフェンは「部品の供給を継続できるようにするために注力している」。独自動車大手フォルクスワーゲン(VW)、BMW、ダイムラーは春節(旧正月)明けの3日以降も現地工場の操業を見合わせている。
新型ウイルスの流行がいつ終わるかは現時点で予想できない。英『エコノミスト』誌の調査部門エコノミスト・インテリジェンス・ユニットの予測によると、危機的状況が仮に2月末までに終息したとしても、中国の今年の国内総生産(GDP)成長率は5.7%となり、昨年の6.1%から低下。終息時期が4月中旬になると5.4%へと一段と低下する。年末まで長引いた場合は4.5%と、中国としては異例の低さに落ち込む見通しだ。
国際通貨基金(IMF)のクリスタリナ・ゲオルギエバ専務理事は各国メディアの共同インタビューで、新型ウイルス流行の長期的な影響は不明だとしながらも、中国政府の感染拡大予防策はすでに国際的な生産網に影響を与えていると指摘。旅行が減少していることも挙げ、成り行きを注視していることを明らかにした。
また、2003年に流行した「重症急性呼吸器症候群(SARS)」は同年の世界経済成長率を0.1ポイントしか押し下げなかったと述べたうえで、世界のGDPに占める中国の割合がこの間に4%から4.5倍の18%へと拡大したことを指摘。新型ウイルスが世界経済にもたらす影響はSARSを上回る可能性があることも示唆した。