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2020/2/19

総合 - ドイツ経済ニュース

VWが排ガス不正の和解交渉打ち切り、顧客には8.3億ユーロを支払う意向

この記事の要約

vzbvは2018年11月1日、VWを提訴した。

交渉では訴訟に参加した顧客にVWが1台当たり1,350~6,200ユーロを支払うことで合意が成立していた。

VWは、vzbvが仮に勝訴しても訴訟参加者が同社から損害賠償の支払いを受けるためには、地方裁判所に改めて提訴しなければならないことを指摘。

自動車大手のフォルクスワーゲン(VW)を相手取って独消費者センター全国連盟(vzbv)が起こした集団代表訴訟の和解交渉が14日、決裂した。vzbv側の弁護団が不当な手数料を要求したとしてVW側が交渉を打ち切ったためだ。ただ同社は、同訴訟に参加した顧客に支払う総額に関しては和解交渉で合意が成立していたとして、最大で計8億3,000万ユーロを支払う意向を表明した。

vzbvは2018年11月1日、VWを提訴した。違法なソフトウエアを搭載したVWグループ車の購入者が損害賠償を受け取れるようにすることが狙い。集団代表訴訟制度が発効した同日付でブラウンシュヴァイク高等裁判所に訴状を提出した。同制度では被害を受けた消費者でなく、認証を受けた団体が裁判を起こすことになっている。

vzbvは「EA189」というディーゼルエンジンを搭載するVWブランド乗用車、アウディ、シュコダ、セアトの車両を購入した消費者に訴訟への参加を呼びかけた。参加資格者は該当車両を2008年11月1日以降に購入した消費者250万人で、そのうちの46万人が参加した。

VWとvzbvは1月初旬、和解交渉を行うことを明らかにした。交渉では訴訟に参加した顧客にVWが1台当たり1,350~6,200ユーロを支払うことで合意が成立していた。

VWによると、vzbv側の弁護団が支払い手続きの手数料として5,000万ユーロを要求したことが決裂の原因となった。VWは要求額を裏付ける具体的な根拠がないと指摘。また、要求額の鑑定を独立の第三者に依頼するという同社の提案を弁護団は拒否したとしている。

これに対しvzbvは、「透明で信頼に値する、消費者にとって確実な支払いシステムを実現する用意がVWになかったことが原因となり決裂した」と反論。VWがプレスリリースで流布した説明は偽りだと批判した。消費者に予期せぬ帰結をもたらしかねない和解には応じられないとの立場だ。

和解が実現しなかったことから、ブラウンシュヴァイク高裁は今後、判決を下す見通し。どちらが勝訴しても係争は最高裁の連邦司法裁判所(BGH)に持ち込まれる公算が高い。VWは、vzbvが仮に勝訴しても訴訟参加者が同社から損害賠償の支払いを受けるためには、地方裁判所に改めて提訴しなければならないことを指摘。そうした裁判で最終判決が出るには数年を要するとして、VWが今回、行った賠償支払い提案を受け入れるよう促した。

同訴訟に参加した消費者は2つの選択肢の前に立たされている。一つはVWの損賠提案を受け入れるというもの、もう一つはこれを拒否して裁判で引き続き争うというものだ。VW提案を受け入れた人は確実かつ迅速に賠償金を手にすることができる。見通しのきかない訴訟のストレスを抱えながら長い時間を過ごすという「消耗戦」から解放されることもメリットだ。ただ、裁判でvzbvが勝訴しVW提案よりも有利な損賠条件を勝ち取ったとしても、VW提案との差額を受け取ることはできない。

財務リスク軽減の効果も

VWが和解交渉を打ち切って損賠提案を行った背景には、個別訴訟に比べて企業が受ける圧力が大きい集団訴訟で原告側を分断し、勢力を弱めたいという思惑があるもようだ。

ドイツの集団代表訴訟制度では、原告側の訴訟登録簿に一度、登録した消費者はこれを取り消すことができない。このため、VWの損賠提案を受け入れた消費者も訴訟登録簿にとどまることになる。この結果、誰がVWの提案を受け入れたかをVWが把握できるのに対し、vzbvは把握できず、気が付けば原告側の消費者が全員、VWの提案に応じていたという事態も起こり得る。これについては専門家の間から「制度設計上の欠陥」との批判が出ている。

5月には最高裁の連邦司法裁判所(BGH)がVWのディーゼル排ガス不正に絡んだ別の訴訟で判決を下すことになっている。BGHがVWに不利な判断を下す可能性を排除できないことから、同社は集団代表訴訟の消費者との間でその前に賠償支払い合意を結ぶことで、財務リスクを軽減できる。集団代表訴訟の原告に支払う8億3,000万ユーロについては1月時点ですでに引当金を計上しているもようだ。