ドイツ政府は19日の閣議で、最低保障年金法案を了承した。長期に渡って勤労し公的年金保険料を納付してきたにもかかわらず、賃金が低いために年金受給額が低水準にとどまるという問題を解消することが狙い。連立与党内の政策調整を経て、ようやく閣議決定にこぎつけた。議会での可決を経て来年1月1日付で施行される見通しだ。
与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)は2018年2月の政権協定で、公的年金保険料を35年以上、納付した就労者に生活保護を10%上回る「最低年金」を保障する政策方針を取り決めた。長期の就労にもかかわらず、年金受給額が生活保護を大幅に下回る人が少なくないためだ。生活保護は現在、単身者で約800ユーロ(全国平均。家賃が高い大都市部はこれを上回る)に上る。
年金受給額が少ない人のなかには、夫の収入が大きい共働きの主婦なども含まれる。こうした人は老後に貧困へと陥る恐れがないことから、政権協定には最低保障年金の申請者を対象に年金の上乗せが本当に必要かどうかを調べる「必要性審査」の導入が盛り込まれていた。
だがSPDは19年初頭、最低年金を必要性審査抜きで支給するという、政権協定から逸脱した構想を打ち出した。背景には、年金受給額が生活保護水準を下回っているにもかかわらず、生活保護を申請しない人が受給資格者の3分の2を占めるとの事情がある。生活保護を受給できることを知らない人や、個人の生活事情を細かな点まで役所に伝えなければならないことを嫌う人が多いためだ。
最低保障年金支給の前提として必要性審査を義務付けると、資格があるにもかかわらず受給申請を行わない人が多く発生する恐れがあることから、SPDは同審査の不導入方針へと転換した。
これに対しCDU/CSUは、最低年金を本来必要としない人に支給すれば、財政支出がいたずらに膨らむと強く反発。SPDと火花を散らしながら妥協点を模索し、必要性審査の代わりに「所得審査」を行うことで昨秋にようやく合意した。所得審査では支給のための審査を年金当局と税務当局が自動的に行うことから、受給資格者の申請が不要で、申請しないがゆえに受給できないという問題が解消される。
今回の法案によると、最低保障年金を受給するのは◇公的年金保険料を33年以上、納付した◇年金受給額が平均の30~80%の水準にとどまる――の両条件に該当する人。例えば保険料を37年間納付した東部州在住の人で、年金受給額が平均の40%(約497ユーロ)にとどまる場合は、月の受給額が約390ユーロ上乗せされ約887ユーロとなる。
政府によると、最低保障年金の受給者は約130万人で、そのうち70%を女性が占める。コストは年14億ユーロ。全額を国の補助金で賄うことから、年金保険料が上昇することはない。