ドイツ政府は2月27日、新型コロナウイルスの対策本部を設置した。イタリアを中心に欧州で感染者数が急増していることから、ドイツでもエピデミック(局地的な流行)に発展する可能性を排除できなくなったためだ。ホルスト・ゼーホーファー内相は「状況は大幅に悪化した」と述べた。内務省と保健省が共同で対策に当たる。
ドイツでは新型コロナウイルスの感染者が1月下旬に初めて確認された。ただこれまでは、感染者を全員、隔離したうえ、感染者と接触した可能性のある人を全員、速やかに検査したことから、感染の拡大が食い止められていた。
だが、25日にノルトライン・ヴェストファーレン州(NRW)とバーデン・ヴュルテンベルク州(BW)でそれぞれ1人の新規感染者が確認されてからは感染者数が急速に増加。同日から27日までに新たに確認された患者は計10人に上った。ロベルト・コッホ研究所によると、累計の感染者数は28日に53人、3月1日午前に117人、2日15時に157人と速いスピードで増加。3日10時には188人に達した。世界で7番目、欧州でもイタリア(2,036人)、フランス(191人)に次いで3番目に多くなっている。
独16州中13州で感染者が出ている。最も人数が多いのはデュッセルドルフを州都とするNRW州で101人に上る。これにバイエルン州が35人、BW州が26人、ヘッセン州が10人、ベルリン州が3人で続く。現時点で死者は出ていない。
2日15時時点のデータによると、感染者の93%は感染が確認された人との接触、ないし感染流行地域での滞在が原因であることが分かっている。残りは感染源が解明されていない。このため感染者の増加を防ぐための対策(感染した可能性のある人の検査と感染者の隔離)も十分には行えない状況だ。本人が知らないうちに感染するとともに他の人にうつしているケースがあるとみられ、感染者数は今後も増える可能性が高い。
NRW州の感染者数がダントツで多いのは同州西部のハインスベルク郡で比較的大きなクラスター(感染者の集団)が形成されたためだ。同郡の感染者数は91人(2日15時)に上る。発端となった感染者は感染の事実を知らずにカーニバルの催しに参加し、多くの人を巻き込んだ。
パスタや缶詰が品薄に
ハインスベルクでは住民が外出を控えていることから街中の人影が少なくなっているものの、それ以外の地域では今のところ日常生活に大きな変化が出ていない。ただ、スーパーの店頭ではパスタ類、小麦粉、缶詰など長期保存できる食品やトイレットペーパーが品薄になっている(下の写真を参照)。感染して自宅に隔離されるリスクを見据えて大量に買い込む消費者が多いためだ。
また、入国制限は行っていないものの、中国、韓国、日本、イラン、イタリアからの入国者は所在追跡・健康質問票に必要事項の記入を義務付けられている。日本大使館はホームページで邦人に対し、正確な記入を促している。列車に感染の可能性がある人が乗車していることが分かった場合も所在追跡質問票への記入が同乗者に義務付けられる。
イェンス・シュパーン保健相は、感染拡大を抑えるために地域限定で日常生活を制限する可能性があることを明らかにした。国境閉鎖や中国便の全面停止、イベントの全面禁止は考えていない。ただ、様々な国の人が参加する国際的なイベントについては感染拡大のリスクが高いとみており、中止を命じる可能性もある。世界最大の観光見本市ITBベルリンや、ミュンヘンの国際手工業見本市(IHM)は主催者が当局と協議したうえですでに中止を決めている。
企業支援策を政府が検討
新型肺炎がドイツ経済に与える影響は現時点では限られており、2月の企業景況感指数は改善した。ただ、中国の生産が大きく減少していることから、今後はしわ寄せを受ける企業が増える見通しだ。中国から輸出された部品が欧州に到着するのは6週間後になることから、製品製造に必要な部品を確保できないメーカーが出てくる可能性は高い。政府はそうした事態に備えて現在、支援策や景気対策を検討している。
Ifo経済研究所のクレメンス・フュスト所長は3日、新型コロナウイルスの感染者急増を受けて、ドイツが景気後退局面(リセッション)入りするリスクは大幅に高まったとの見方を示した。2月24日に同月のドイツ企業景況感指数を発表した時点では新型肺炎の影響は差し当たり小さいとしていたが、その直後から国内感染者が急増してきたことから、認識を改めた格好だ。サプライチェーンの寸断や旅行需要の減少を受けて本来健全な企業が倒産するのを避けるために、政府は緊急融資や操短支援を行うべきだとしている。欧州中央銀行(ECB)については、主要政策金利の中銀預入金利がマイナス0.5%となりさらなる引き下げの余地が小さいことから、債券買い入れの拡大を通して民間に資金が供給されるようにすることが考えられると述べた。米国のトランプ大統領に対しては世界的な景気の失速を避けるために中国などとの通商紛争を止め、通商上の障壁を撤廃するよう要求している。
経済協力開発機構(OECD)は2日、今年の世界経済成長率を従来予測の2.9%から2.4%へと引き下げた。新型肺炎の流行を受けたもので、流行が今後さらに拡大した場合は1.5%まで落ち込む可能性があるとしている。ドイツについても従来の0.6%から0.3%へと下方修正した。