ドイツ政府の新型コロナウイルス対策が本格化してきた。感染者数がうなぎ上りに増え、経済・社会の幅広い分野に影響が出始めているためだ。現状を放置すれば感染者が増えすぎて国内の医療機能が麻痺したり、景気と雇用が大幅に悪化する恐れがあることから、悪循環を断つために規制に乗り出すとともに、企業支援策の検討を開始した。
ロベルト・コッホ研究所(RKI)が確認した感染者数は4日10時時点で240人だった。9日15時にはこれが1,139人へと拡大。同日には2人が死亡し、ドイツでも初めて感染死者が出た。感染者数は中国(8万924人)、イタリア(9,172人)、韓国(7,513人)、イラン(7,161人)、フランス(1,412人)に次いで6番目に多い(10日7時)。ザクセン・アンハルト州を除く国内15州で感染が確認されている。
感染が世界的に広がり、医療用品が国内で不足する懸念が出ていることから、政府の新型コロナウイルス対策本部は4日、医療用マスクなどの輸出を原則的に禁止した。国内の医療システムの機能を保つことが狙い。対策本部が指定した製品は連邦保健省が一括調達したうえで、医療機関に配給している。
輸出が禁止された医療用製品はマスク、手袋、防護服、保護メガネ、樹脂製のフェイスシールド。これらの製品は国際協調支援活動など特別な場合を除いて輸出できなくなった。禁輸措置に対しては欧州連合(EU)に加盟する他の国から批判が出ているものの、政府は方針を変更していない。
新型コロナは感染しても症状が出ない人も多いことから、拡大を防ぐことが難しい。このため専門家の間には最終的に国内在住者の最大70%が感染するとの見方もある。
ただ、感染者数が急速に増えすぎると、国内の医療機能が麻痺しかねないことから、政府は対策を通して拡大のスピードを弱める戦略だ。
国内には集中治療用ベッドが約2万8,000床ある。通常であれば十分な規模だが、重度の新型コロナ患者が急増すると、不足する懸念がある。
感染拡大の予防に向けてイエンス・シュパーン保健相は8日、参加者1,000人超のイベントを当面、見合わせることを勧告した。イベントの中止・延期は当事者ないし監督権限を持つ自治体が決めることになる。ノルトライン・ヴェストファーレン、バイエルン、バーデン・ヴュルテンベルク、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン、ブレーメン、テューリンゲン、ラインラント・ファルツ(RP)の7州はこの勧告を受け入れる意向を10日までに表明した。RP州は感染リスクが特に高い屋内のイベントに限定しているが、その他の6州は屋外イベントも禁止しており、これらの州ではプロサッカーリーグ「ブンデスリーガ」などの試合が観客なしで行われることになる。
ヘッセン州は1,000人超のイベントの中止を勧告した。
独企業の半数が売上減を予想
新型コロナの拡大は外出や旅行の自粛に伴う需要の減少、従業員の感染による業務の支障、サプライチェーンの寸断などの形で企業の活動と業績に影響をもたらす。独商工会議所連合会(DIHK)が会員企業1万社強を対象に実施したアンケート調査(6日発表)によると、新型コロナの感染が拡大したことを受けてドイツ企業の2社に1社が今年、売上高が減少すると予想している。エリック・シュヴァイツァー会長は「極めて短期間であっても売り上げが半減し、その間の支出額はほとんど減らない状況に陥れば、多くの企業は長く持ちこたえることができない」と述べ、政府に効力の高い緊急対策を促した。
「売り上げが10%以上、減少する」との回答は25%を超えた。見本市、旅行、ホテル・飲食業界では70%が2ケタ台の減収を見込んでいる。感染拡大の予防措置を受けて大規模なキャンセルの嵐に直面しているためだ。同会長は見本市と出張が企業間の取引のきっかけになるという事情を指摘。見本市の開催中止・延期と出張の抑制は今後の受注の減少につながることから、経済全体の大きなリスク要因だとの認識を示した。
政府に対しては業績が悪化した企業への◇税・社会保険料の支払い猶予◇操短・資金繰り支援――を行うよう要求した。これらの措置を企業の申請を受けてから数日以内に行うことが重要だとくぎを刺している。政府が支援策を決定しても役所の動きが遅く企業の緊急のニーズに応えられないことが、これまでの経験から想定されるためだ。
操短手当の基準緩和などで
与党合意
経済界の要求を受け政府与党3党は8日夜から9日未明にかけてベルリンの首相官邸で開いた連立委員会で、新型コロナ流行の大きな痛手を受ける企業を支援することで合意した。差し当たり操業短縮に追い込まれた企業に支援を実施。状況が悪化した場合は必要な対策を迅速かつ効果的に行うとしている。新型コロナが経済と雇用にもたらす影響を可能な限り抑制する意向だ。
3党は操短手当の支給基準を緩和することなどを取り決めた。新型肺炎の感染者がイタリアを中心に欧州でも拡大し、しわ寄せを受ける企業が急速に増える見通しとなっているためだ。
ドイツには操短の対象となった被用者向けに、目減りした賃金の60~67%を連邦雇用庁(BA)が補償する操短手当制度がある。本来のルールでは、全従業員の3分の1以上が操短の対象となる事業拠点でないと手当が支給されないが、3党は今回、年末までの時点措置として同比率を最大10%まで引き下げることで合意した。このほか、◇操短手当を派遣社員にも適用する◇操短時間分の社会保険料をBAが全額、肩代わりする――ことを取り決めている。乗客の急減に直面する航空大手のルフトハンザは6日、操短手当の申請に向けてBAと協議をすでに開始したことを明らかにした。
政府は現在、新型コロナの影響で経営が悪化した企業の資金繰り支援も検討している。ペーター・アルトマイヤー経済相は9日、納税猶予や融資、融資保証を考えていることを明らかにした。