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2020/5/27

総合 - ドイツ経済ニュース

政府が貿易政令を改正、コロナ危機を受け医療分野の企業保護強化へ

この記事の要約

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて医薬品や医療用品の重要性が痛感されていることから、医療分野の独企業に対する欧州連合(EU)域外の企業の出資計画をこれまでよりも厳しく審査できるようにする。

「米国第一」を掲げる米トランプ政権は、ワクチン開発の有力企業である独キュアヴァクを買収したうえで本社を米国に移管し、同社が専ら米国市場向けに新型コロナワクチンを開発・製造するようにすることを画策したとされる。

国内の医療用品、ワクチン、治療薬メーカーにEU外の企業が10%以上の出資を計画する場合は審査できるようにする。

ドイツ政府は20日の閣議で、貿易政令(AWV)改正案を了承した。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて医薬品や医療用品の重要性が痛感されていることから、これらの分野の独企業に対する欧州連合(EU)域外の企業の出資計画をこれまでよりも厳しく審査できるようにする。同改正案は近く官報に掲載され、施行される見通しだ。

新型コロナの中国での流行を受けてインド政府は3月初旬、計26種類の原薬と、これらの原薬で作られる医薬品の輸出を禁止した。背景には、原料の主要な供給元である中国での原料生産が大幅に減少したことがある。インドの原薬メーカーは原料調達に苦慮するようになったことから、同政府は国内での医薬品供給不足を回避するために輸出禁止に踏み切った。インド製の原薬に投入される原料の約70%は中国から輸入されている。

欧州をはじめ世界の製薬メーカーは原料と原薬を中国とインドに強く依存している。このため、両国からの供給が止まると、医薬品を製造できなくなり、医療システムが崩壊することになる。同じことはマスクなどの医療用品にも当てはまり、ドイツなど各国の病院は現在、医療用マスク・防護服の確保に苦慮している。

新型コロナ危機ではこれらの資源をめぐる露骨な争奪戦も起きている。「米国第一」を掲げる米トランプ政権は、独ベルリン州が警察官用に中国で調達した米3M製のマスクを輸送途中で“横取り”したとされる。また、ワクチン開発の有力企業である独キュアヴァクを買収したうえで本社を米国に移管し、同社が専ら米国市場向けに新型コロナワクチンを開発・製造するようにすることを画策したとされる。

新型コロナワクチンの治験をすでに行っている独バイオ企業ビオンテックは買収の打診を複数、受けている。

政府はこうした事情を踏まえAWVを改正。国内の医療用品、ワクチン、治療薬メーカーにEU外の企業が10%以上の出資を計画する場合は審査できるようにする。これまでは同25%以上でないと審査できなかった。

審査では、ドイツの公共秩序・セキュリティが危険にさらされる恐れがないかどうかを調べる。また、出資を計画するEU域外の投資家が国外の政府や公的機関、軍の直接・間接的な統制下にないかどうかも調べる。これらの点で懸念がある場合は拒否権を行使することになる。

経済界からは批判

AWVは貿易法(AWG)の施行細則を定めた政令。ドイツ政府は近年、中国企業による欧米ハイテク企業などの“買い漁り”を受けて外資規制を強化している。

きっかけとなったのはドイツの産学官が一体となって推し進める「インダストリー4.0」戦略の中核的な企業である産業ロボット大手の独クーカが中国家電大手の美的集団に株式公開買い付け(TOB)で買収されたことだ。政府はこれに衝撃を受け2017年にAWVを改正。EU外の資本による出資を禁止できる対象を初めて具体的に規定し、電力、病院、港湾など重要インフラの運営事業者やこれらのインフラに用いるソフトウエアの開発会社への出資を外資が計画する場合は、買収可否の審査対象になることを明確化した。

政府は18年12月にも同政令を改正した。この改正のきっかけとなったのは、中国の国有送電会社である国家電網が試みた独送電事業者50ヘルツへの資本参加だ。国家電網は50ヘルツへの出資比率を20%にとどめる考えだったことから、政府は同25%以上を審査の対象にするとしたAWVの当時の規定に基づく拒否権を行使できず、出資を阻止するために50ヘルツの出資者に水面下で働きかけるという“裏技”を使わざるを得なかった。この反省を受けて、拒否権を行使できる出資比率を「25%以上」から「10%以上」へと引き下げた。

政府の外資規制に対し経済界からは懸念の声が出ている。独化学工業会(VCI)は、外国からの直接投資に障壁を設けることはドイツの産業立地競争力を弱め、新型コロナ危機からの回復の足かせになると批判した。独産業連盟(BDI)は医療分野の産業を外資からの保護対象リストに加える必要はないとしている。

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