新型コロナウイルス感染症の流行が始まった3月以降、多くの企業が在宅勤務を積極的に活用している。人と人の接触を可能な限り抑制することが、感染防止に役立つからである。ただ、企業によっては在宅勤務を認めておらず、これが係争に発展している。今回はこの問題を巡る裁判(訴訟番号:3 Ga 9/20)を取り上げてみる。
裁判は63歳の法律家が勤務先を相手取って起こしたもの。勤務先では同僚1人と部屋を共有する形で働いている。原告は新型コロナのハイリスクグループに属するとして、医師の診断書を提示したうえで、在宅勤務ないし個室勤務を被告に要求。これが拒否されたため提訴した。
一審のアウグスブルク労働裁判所は5月、この訴えを退ける判決を下した。判決理由で裁判官は、労働契約と法律の規定からは原告に在宅・個室勤務の請求権が発生しないことをまず指摘。そのうえで、被用者の生命と健康を守るための措置を雇用主に義務付ける民法典(BGB)618条の規定を被告は順守しているとして、原告は相部屋での勤務を拒否できないと言い渡した。
原告は判決を不服として控訴しており、裁判は確定していない。
フベルトゥス・ハイル労相は在宅勤務の権利を被用者に認める法律の制定に意欲をみせているが、すべての被用者に適用される一般的な在宅勤務の権利は現時点で存在しない。