欧州連合(EU)の欧州証券市場監督機構(ESMA)は3日、不正会計疑惑から経営破綻に至ったドイツのフィンテック企業ワイヤーカードに対する独金融当局の監督体制についての調査結果を公表した。企業会計を監督する独連邦金融監督庁(BaFin)と、BaFinからの委託で実際に監督業務を担う財務報告エンフォースメントパネル(FREP)の対応には不備があり、財務報告の監視システムにも多くの問題があると指摘している。独政府はワイヤーカードの破綻を機に監督体制の見直しを進めており、ESMAの調査結果を受けて改革が加速する可能性がある。
ワイヤーカードはクレジットカード会社向け決済サービスなどを手がけていた。2018年にはDAX30(ドイツ主要30銘柄)入りを果たすなど急成長を遂げたが、今年6月、フィリピンの大手銀行2行の口座にあったとされる19億ユーロが消えたと発表。その後、この現金は実際には存在しなかった可能性があることを明らかにし、債務超過は避けられないとして会社更生手続きの開始を申請した。
ワイヤーカードをめぐっては、2019年初頭から内部告発や英紙『フィナンシャル・タイムズ(FT)』の不正疑惑報道などが相次ぎ、同社は対応に苦慮していた。しかし、BaFinはワイヤーカードの株価下落を受け、同社株の空売りを禁止したり、関係者の証言をもとにシンガポール子会社の不正会計疑惑を報じたFT紙の記者を刑事告発するなど、当初はワイヤーカードを保護するかのような動きをみせていた。
欧州委員会は6月、少なくとも1年半にわたり不正会計疑惑が見過ごされてきた事実を念頭に、独当局の対応に問題がなかったか検証するようESMAに要請。ESMAはBaFinとFREPによる監督システムの有効性や、両機関が上場企業の情報開示に関するルールをどのように適用していたかなどに主眼を置いて調査を進めてきた。
ESMAはまずBaFinの対応について、複数の職員がワイヤーカードの株式を購入していた事実を公表しておらず、利益相反に関する報告義務を怠ったと非難。また、財務省に対する報告の頻度や内容から、BaFinが同省の影響下に置かれており、独立性が十分に確保されていない可能性があると指摘した。
FREPに関しては、内部告発や不正疑惑に関する報道があったにもかかわらず適切に対処せず、不正のサインを見逃したうえ、審査プロセスや分析にも不備があったと指摘。さらにBaFinとFREPの連携不足や、企業会計に問題が生じた場合でも、FREPの審査報告を受ける前にBaFinが独自に調査を実施することができないシステムに問題があるとの見方を示している。
独政府はワイヤーカードの破綻を受け、FREPへの業務委託を取りやめてBaFinに調査権限を移す方針を表明した。ショルツ財務相はESMAの調査結果について、監督体制の強化に向けて政府が打ち出した行動計画とおおむね合致しており、「批判するような内容ではない」とコメントした。