欧州連合(EU)の欧州委員会は1月29日、EU域内で製造された新型コロナウイルス用ワクチンの域外への輸出を許可制にすると発表した。英アストラゼネカがEU向けのワクチン供給を削減すると通告したのを受けた措置。EUとして必要な量を確保するため対応で、1月30日から3月末までの時限的な措置と説明した。世界保健機関(WHO)は輸出制限につながるとして強い懸念を表明している。
EUはこれまでに異なるタイプの6種類のワクチン計23億回分の購入枠を確保しているが、生産の遅れから予定通りに供給されない事態に陥っている。欧州委は昨年8月にアストラゼネカと最大4億回分の事前購入契約を結んだが、同社は先ごろ、EU向けの初回供給量が当初の予定を大幅に下回ると通告していた。
欧州委によると、EUと正式契約を結んだ製薬会社がベルギーやドイツなど域内の工場で製造したワクチンを域外に輸出する場合、事前に出荷計画をEUに申告し、許可を得る必要がある。欧州委や加盟国の政府が契約と照らして問題がないかをチェックし、契約違反と判断した場合は輸出を差し止めることもできる。ただし、ワクチンの公平な分配を目指す国際的な枠組み「COVAX」を通じた供給などは規制の対象外とする。
欧州委のドムブロフスキス委員(通商政策担当)は「ワクチン供給に関して透明性を高めるのが目的で、WTOなどのルールに沿った対応だ。EU市民の保護と安全が最優先課題であり、時間を無駄にするわけにはいかない」と輸出制限への理解を求めた。
WHOのシマオ事務局長補は29日、EUの対応について「憂慮すべき事態だ。ワクチンの供給網は細分化されており、今の段階での輸出制限はどの国にとっても有益ではない」と述べ、強い懸念を表明した。