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2021/5/19

総合 - ドイツ経済ニュース

炭素中立実現を45年に前倒し、30年の排出削減目標は65%に引き上げ

この記事の要約

ドイツ政府は12日の閣議で気候保護法(KSG)改正案を了承した。現行法を違憲とする連邦憲法裁判所の判断と、欧州連合(EU)の温室効果ガス排出削減目標引き上げを踏まえたもので、カーボンニュートラル(炭素中立)実現の時期を前 […]

ドイツ政府は12日の閣議で気候保護法(KSG)改正案を了承した。現行法を違憲とする連邦憲法裁判所の判断と、欧州連合(EU)の温室効果ガス排出削減目標引き上げを踏まえたもので、カーボンニュートラル(炭素中立)実現の時期を前倒しするほか、2030年の中間削減目標を引き上げることなどが柱。環境政党の野党、緑の党が9月の次期連邦議会選挙で躍進すると予想されることから、温暖化防止分野で積極的な姿勢を打ち出し、選挙戦を有利に進める狙いがうかがわれる。同選挙前に法案を可決・成立させる考えだ。

連邦憲法裁は4月29日、KSGを違憲とする決定を下した。50年までに炭素中立を実現するとしているにも関わらず同法に明記されている削減目標値が30年までにとどまり、31年以降は記されていないことを問題視。排出削減の負担の多くを31年以降に先送りすることは将来の世代の自由権を不当に制限することになるとして、31年以降の温室効果ガス排出削減目標値を改正法に盛り込むことを議会に義務付けた。

EUは二酸化炭素(CO2)の排出量と吸収量が同一となる炭素中立を50年までに実現するという目標実現に向けて30年時点の中間目標を設定している。同中間目標の排出削減幅はこれまで1990年比40%となっていたが、昨年12月の首脳会議で少なくとも55%に引き上げることで合意。近く正式決定することになっている。

独政府は憲法裁の命令とEUの中間目標引き上げを受けてKSG改正案を作成した。炭素中立実現の時期を従来の50年から45年に前倒しするとともに、30年の中間削減目標を55%から65%へと10ポイント引き上げている。

30年の目標値を引き上げるのは、EUの30年目標引き上げに伴いドイツに義務付けられる目標値が上昇するため。改正法案に盛り込んだ65%という数値が、EUがドイツに義務付ける数値と異なった場合はKSGの数値を事後的に修正するとしている。EUの決定を待たずに法案を作成したのは緑の党を意識しているためだ。

改正案には憲法裁命令を踏まえ、31年から40年までの排出削減目標が明記された。削減幅は31年が67%、32年が70%、33年が72%、34年が74%、35年が77%、36年が79%、37年が81%、38年が83%、39年が86%、40年が88%となっている。41年から炭素中立を実現する45年までの各年については32年までに目標値を決定する。50年以降は植林や再湿地化を通してCO2の排出量が吸収量を下回る「ネガティブ・エミッション」を実現する考えだ。

各部門の排出許容枠縮小

30年の国内排出削減目標を引き上げたことから、エネルギーなど計6部門に割り当てる排出許容枠は縮小される。各部門の30年の排出許容量はエネルギーが従来の「1億7,500万~1億8,300万CO2換算トン」から1億800万CO2換算トン、製造業が「1億4,000万~1億4,300万CO2換算トン」から1億1,800万CO2換算トン、建造物が「7,000万~7,200万CO2換算トン」から6,700万CO2換算トン、運輸が「9,500万~9,800万CO2換算トン」から8,500万CO2換算トン、農業が「5,800万~6,100万CO2換算トン」から5,600万CO2換算トン、ごみ処理・その他が500万CO2換算トンから400万CO2換算トンへと引き下げられる。

エネルギーと製造業では他の部門に比べ排出許容量の削減幅が大きい。これについてスフェンヤ・シュルツェ環境相は、両部門は◇排出量が多い◇排出削減に必要なコストが最も低い――ためだと理由を説明した。

各部門の排出削減を促進するため、政府は温暖化防止関連の予算を計80億ユーロ上乗せするほか、規制、インセンティブ措置を実施する意向だ。再生可能エネルギー発電の拡充加速や水素経済の実現促進、温暖化を助長する補助金の廃止、CO2排出有償ルールなどを通して新たな削減目標を実現する。

建造物分野では賃貸住宅の化石燃料消費量に応じて課される炭素税を借り手と貸し手が折半負担するルールを導入する。貸し手にコスト圧力をかけることで熱効率の悪い住宅の改築を促すことが狙いだが、不動産業界からは不当で不適切な措置だとの批判が出ている。土地所有者連盟のカイ・ヴァルネッケ会長は、借り手が使用する暖房や温水の量を貸し手が制御することはできないと指摘。政府法案が施行されると、借り手は暖房などの使用量に頓着しなくなることから、貸し手は家賃を引き上げざるを得なくなり、社会の分断が強まると懸念を表明した。