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2021/7/14

総合 - ドイツ経済ニュース

コロナ対策が新たな段階に、接種進展で状況変化

この記事の要約

ワクチン接種の進展を受けて、新型コロナウイルス対策が新たな段階を迎えようとしている。対策の前提が大きく変わってきているためだ。具体的には感染状況を判断するために重視するデータの見直し、集団免疫の実現に向けたワクチン接種率 […]

ワクチン接種の進展を受けて、新型コロナウイルス対策が新たな段階を迎えようとしている。対策の前提が大きく変わってきているためだ。具体的には感染状況を判断するために重視するデータの見直し、集団免疫の実現に向けたワクチン接種率の引き上げ、感染力が特に高いデルタ株の流行をにらみながら規制緩和をいかに進めるかが焦点となる。

ロベルト・コッホ研究所(RKI)が13日発表した人口10万人当たりの直近7日間の新規感染者数(7日間の発生数)は6.5人となり、前日の6.4人からやや増加した。増加は7日連続。6日の4.9人を直近の底に拡大が続いている。デルタ株が感染の主流となったことが増加に転じた原因とみられる。ただ、新規感染者数は今のところ極めて少なく、状況は安定している。

ドイツではこれまで、感染状況の判断に際して7日間の発生数を最重視してきた。この数値が高い水準で推移し続けると、病院の集中治療キャパシティが限界を超えるという認識に基づいたもので、医療崩壊を避けるためには大きな意味を持っていた。だが、感染すると重症化したり死亡するリスクの高い高齢者と基礎疾患を持つ人を中心にワクチン接種率が高まってきたことから、感染状況の判断基準見直しが必要との認識がこのところ広がっている。

ワクチンの接種を少なくとも1回、受けた人の割合(人口比)は12日時点で58.5%と約6割に達した。接種をすでに完了した人も42.6%と多い。RKIの最新公報によると、60歳以上では1回目の接種を終えた人が6月初旬時点で84%に達している。

こうした状況を背景に、新型コロナ患者の入院は大幅に減少。集中治療を受ける患者は12日時点で435人まで減った。直近のピークである4月26日には5,122人に達していた。集中治療のキャパシティには現在、ゆとりがある。

新規感染者数を年齢層別でみても、最も多いのは35~59歳、次に多いのは15~34歳で、60歳以上は少ない。ワクチン接種が進む前は80歳以上を中心に60歳以上が最も多かった。

現在はワクチン接種の順番が59歳以下にも回ってきていることから、今後はこれらの年齢層でも新規感染が減る見通しだ。またワクチンの効果で、感染しても重症化して入院する人は確実に少なくなる。

現状では新規感染者数が高水準で推移しても医療崩壊が以前に比べ起きにくい。連邦保健省はこうした変化を踏まえ12日、今後は入院患者のデータも状況判断で重視する方針を明らかにした。13日に発効した省令では医療機関に対し、◇ワクチン接種の有無やワクチンの種類◇入退院日◇集中治療を受けたか◇人工呼吸器を装着したか――といった入院患者に関する詳細データの提出を義務付けている。

60歳未満が集団免疫獲得のカギ

ワクチンの供給量はこれまで需要を下回っており、接種を受けたくても受けられない人が多かった。現在は供給量が増えているうえ、◇未接種の希望者が少なくなっている◇新規感染者が大幅に減少したことで安心感が広がり、接種を見合わせる人が増えている――ことから、供給過多に陥る可能性が出てきた。

RKIによると、集団免疫を獲得するためには15~59歳の85%以上、60歳以上の90%以上が接種を完了する必要がある。60歳以上については90%を超えるメドがすでに立っているものの、60歳未満では85%に達しない懸念がある。

接種比率をいかに引き上げるかが大きな課題として浮上しており、政治家の間からは接種者に宝くじの抽選券を配るなどの誘導策を求める声が出ている。自治体によってはショッピング街で通行者にその場で接種するサービスを展開中だ。医療・介護関係者や教員に対しては接種を義務付けるべきだとの議論も強くなっている。ただ、アンゲラ・メルケル首相は13日、義務化を明確に否定しており、現政権中に接種義務が導入される可能性は低い。

コロナ規制は基本法で保障された自由権を制限している。このため規制が不要になれば速やかに解除する必要がある。ハイコ・マース外相はこれを踏まえ6日、「ドイツ在住のすべての人が接種の提供を受けたならば、何らかの制限を続ける法的・政治的な根拠はなくなる」と述べ、コロナ規制を早ければ8月にも停止すべきだとの認識を示した。

だが、規制を大幅に緩和した英国ではワクチン接種がドイツよりも進んでいるにも関わらず、デルタ株の感染者が急増したことから、規制解除は時期尚早との見方が強い。イエン・シュパーン保健相はワクチン接種率が集団免疫獲得水準へと高まるまでは規制を解除できないと明言。シュテッフェン・ザイベルト政府報道官も市民に、「再び享受できるものは何でも享受してください。ただし用心しながら。社会的距離、マスク、検査、そして何よりもワクチン接種を(忘れずに)」と呼びかけた。