複数の企業が「共同の事業体」に該当、解雇のハードルは上昇

一人の人物が複数の企業を経営しているうえ、これらの企業間で業務を分担するなど関係も緊密なケースはしばしばある。そうした場合、これらの企業は「共同の事業体(gemeinsamer Betrieb)」とみなされ得るのであろうか。些末な問題と思われるかもしれないが、被用者の解雇絡みでは大きな意味を持つため、注意が必要だ。今回はこの問題に絡んだ係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が5月に下した判決(訴訟番号:2 AZR 560/20)を取り上げてみる。

裁判は計量器の販売を手がける企業(B社)から解雇を通告されたサービスエンジニアが雇用主を相手取って起こしたもの。被告は別の計量器販売会社(A社)の経営者でもある。

両社は緊密に協業し、A社のホームページではB社がサービス拠点として記されている。両社はまた、派遣するサービス技術者が足りない場合、それぞれ技術者を融通し合っている。

被告は義務違反を理由に、2019年1月17日付と18日付の文書で原告に警告処分を通告した。さらに、原告が労働不能証明書(Arbeitsunfaehigkeitsbescheinigung)を提出し2月5日~3月22日の病欠を通告したことを受け、2月5日付の文書で原告に解雇予告期間付きの通常解雇(3月末付)を通告した。

原告はこれが不当な解雇を禁じた解雇保護法(KSchG)と、権利を正当に行使した被用者を雇用主が合意や各種の措置で差別することを禁じた民法典(BGB)612a条に違反するものだと主張。解雇無効の確認と警告処分の取り消しを求めて提訴した。

一審と二審は原告の訴えを棄却し、最終審のBAGも下級審判決を支持した。判決理由でBAGの裁判官はまず、B社とA社の◇人員投入の指令系統が統一されていない◇物的・非物的な経営手段も共同投入されていない――と指摘。B社とA社は共同の事業体に当たらないと認定した。そのうえで、B社の被用者が原告を含めて計4人だったことを指摘。被用者数が10人以下の事業体には解雇保護法が基本的に適用されないとして、原告の解雇は同法に抵触しないと言い渡した。

また、被用者の正当な権利である病休取得(過去の事柄)への報復として被告が原告を解雇したのであれば民法典612a条で禁じられた差別に当たり無効だが、被告が解雇に踏み切ったのは原告の病休で業務に支障が出ること(将来の事柄)を回避するためだったと認定。原告の解雇は同条にも抵触しないとの判断を示した。

警告処分の取り消し要求については、解雇の有効性が確認され雇用関係が解消されたことから、原告にもはや不利益をもたらすことはないとして、訴えを退けた。

上部へスクロール