ドイツではコロナ禍の早い時点でマスク着用義務が導入された。当初は布マスクも認められていたが、現在は医療用マスク(通称OPマスク)、ないしフィルター機能が高い「FFP2」などの微粒子用マスクでなければならない(新規感染者数が極めて多い州では現在、OPマスクも認められていない)。FFPマスクは値段が高いうえ、息苦しく酸欠になりやすいことからOPマスクを使用する人の方が多いようだ。今回はマスクを着用して勤務した被用者に特殊勤務手当の請求権があるかどうかを巡る裁判を取り上げてみる。
裁判は清掃会社の清掃員が同社を相手取って起こしたもの。2019年10月に発効した清掃業界の労使協定では清掃員自身の健康を守るためにマスクを着用して作業した場合、10%の特殊勤務手当を支給する決まりが盛り込まれている。原告は20年8月以降、OPマスクを着用して清掃作業を行ったことから、このルールを根拠に同手当の支給を要求。拒否されたことから提訴した。
一審は原告の訴えを棄却し、二審のベルリン・ブランデンブルク州労働裁判所も11月17日の判決(訴訟番号:17 Sa 1067/21)で一審判決を支持した。判決理由で同州労裁の裁判官は、OPマスクには他人を感染させるリスクを引き下げる効果はあるものの、FFPマスクと異なり自らが感染するリスクを下げる効果はないと指摘。清掃員自身の健康を守るためのマスク着用を特殊勤務手当の支給条件としている労使協定の条件を原告は満たしていないとの判断を示した。
最高裁の連邦労働裁判所(BAG)への上告が認められていることから、判決は確定していない。