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2022/5/25

総合 - ドイツ経済ニュース

カタールが24年にも独へのLNG供給開始、セネガルとは集中協議

この記事の要約

ロシア産天然ガスへの高い依存からの脱却に向けたドイツ政府の取り組みが前進している。輸入先を拡大するための外交攻勢を積極展開。主要産出国のカタールから中期的に供給を受けることにメドを付けた。西アフリカのセネガルからも調達す […]

ロシア産天然ガスへの高い依存からの脱却に向けたドイツ政府の取り組みが前進している。輸入先を拡大するための外交攻勢を積極展開。主要産出国のカタールから中期的に供給を受けることにメドを付けた。西アフリカのセネガルからも調達する方向だ。調達先の多角化に必要不可欠なLNG(液化天然ガス)インフラの整備を加速するための法案などは議会で成立した。

ドイツ政府は20日、カタールとエネルギー分野で協業することで基本合意した。カタールからLNGの供給を受けることが最も緊急性の高い案件。カタールのムハンマド・ビン・アブドゥルラフマン・アール・サーニー副首相はこれについて、2024年にも供給を開始する考えを明らかにした。これまでは供給開始が26年になると見込まれていたが、大幅に前倒しされることになる。

ドイツはロシアのウクライナ侵攻を受け、エネルギーの供給源を多様化しロシア産化石燃料への高い依存から早急に脱却する方針を打ち出した。ロベルト・ハーベック経済・気候相はその一環で3月にカタールを訪問。カタールとの間でエネルギーの長期パートナーシップを結ぶことで口頭合意した。

今回の基本合意はこれを具体化するための第一歩。カタールのタミーム・ビン・ハマド・アール・サーニー首長などがベルリンを訪問し、調印した。LNGのほか、グリーン水素、再生可能エネルギー電力の分野で緊密に協業する。

カタールはペルシャ湾にあるノースドーム・ガス田の採掘能力を26年までに現在の年7,700万トンから1億2,600万トンに拡大することを計画している。このためドイツへの本格的なLNG輸出開始は同年になると目されていた。

だが、ムハンマド・ビン・アブドゥルラフマン・アール・サーニー副首相は今回『ハンデルスブラット』紙に、国営企業カタール・エナジーが米テキサス州に持つLNG輸出ターミナル「ゴールデンパス」からドイツ向けの輸出を24年に開始する意向を表明した。ノースドーム・ガス田からの供給も25年に開始できる可能性があるとしている。カタール・エナジーはゴールデンパスの資本70%を持つ。

一方、オーラフ・ショルツ首相は22日に開始したアフリカ歴訪の最初の国としてセネガルを訪問した。同国は今年、アフリカ連合(AU)の議長国を務めており、6月にドイツで開催される主要7カ国(G7)首脳会議に招待されることから、今回の訪問はその準備という位置づけとなる。ただ、セネガルは有望なガス田を持っており、ドイツ政府が同国からの輸入に大きな期待をかけているのは確かだ。ショルツ氏は記者会見で、ガス生産での協力に向け専門家レベルで集中協議することを明らかにした。セネガルのマッキー・サル大統領も欧州向けのガス輸出に意欲を示しており、ドイツは将来的に同国からもLNGを輸入する可能性が出てきた。

FSRUで環境アセス不要に

LNGインフラの建設を迅速化するための法案は20日までに連邦議会と連邦参議院で可決され、成立した。大統領の署名を経て6月に施行されると、インフラ建設の前提条件である広聴手続きの期間が1週間に短縮。また、差し止め訴訟は最高裁の連邦行政裁判所にのみ提起できる一審制となることから、裁判が長期化し建設プロジェクトが停滞するリスクを回避できるようになる。さらに、浮体式LNG貯蔵・再ガス化設備(FSRU)であれば環境アセスメント調査が不要となる。

政府は同法を活用して、FSRUの設置を速やかに開始し、12月にも最初の設備を稼働させる意向だ。環境保護団体は強く反発しているものの、ハーベック氏はロシアからのガス供給が止まるとドイツは危機的な状況に陥ると述べ、同法への理解を求めた。

20日には改正エネルギー安定確保法も議会で成立した。エネルギーインフラ事業者が安定供給の義務を果たさない場合、経済省の権限でそれらの企業を一時的に信託管理下に置くことが改正法の柱で、必要があれば国有化も実施できる。経済界は同法を原則支持している。

ただ、天然ガスの輸入量が大幅に減り価格高騰が一段と進んだ場合は、ガス販売事業者の経営悪化・破綻を防ぐため、既存契約から逸脱した一方的な値上げを認める条項に対しては批判が出ている。独産業連盟(BDI)は、販売事業者による一方的な値上げという例外状態がどの程度の続くのか、例外状態の終了後は契約で定めた価格が復活するのかが定かでないと問題点を指摘。独自動車工業会(VDA)関係者は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に、独自動車業界の国際競争力が損なわれてはならないと述べ、ガス価格が上昇した場合は速やかに緩衝策を実施するよう政府に要請した。