冷媒に水道水を用いた冷却器を手がけるスタートアップ企業エフィシェント・エナジーが生産を大幅な効率化する。温室効果ガス排出規制の強化とエネルギー価格の高騰を背景に需要が急速に増えているためで、垂直統合を可能な限り水平統合の方向へと改めていく。26日付『フランクフルター・アルゲマイネ』紙が報じた。
同社はミュンヘン近郊のフェルトキルヒェンに本社を置く2006年設立の企業。長年の開発を経て18年半ばに初めて製品を市場投入した。ゲオルク・ディートリヒ社長は「(当時はわが社の技術を)顧客に売り込まなければならなかった。現在は顧客がわが社に出向いてくる」と述べ、風向きが急速に変わっていることを明らかにした。
冷蔵庫や冷房などはほぼ例外なくハイドロフルオロカーボン(HFC)を冷媒として使用している。HFCは温暖化効果が極めて高いことから厳格に管理されているものの、充填、運転、廃棄時に一部が漏れ出る。漏出はごく少量であるにもかかわらず温室効果への寄与度は約7%と高い。
このため欧州連合(EU)は30年までに投入規制を大幅に強化することを決めた。企業は対応を迫られており、これがエフィシェント・エナジーにとって追い風となっている。
ロシアのウクライナ進攻でエネルギー価格が高騰していることも同社にとってはプラス材料だ。同社の製品は電力消費量が従来型製品に比べ最大80%も少ないためだ。
エフィシェント・エナジーの冷却器「eチラー」は液体が蒸発気化する際に周囲から熱を奪う現象を利用する「蒸気圧縮冷凍サイクル」技術を採用している点で従来型の製品と変わりがない。だが、これを常温で行う点は新しい。技術的な壁が高かったことから、開発に長い時間がかかった。200以上の特許を持っている。
これまでは部品も含めて内製してきた。生産量が少なくサプライヤーを確保できなかったためだ。現在は電機大手のシーメンスや貯蓄銀行など有力顧客を獲得。工作機械大手トルンプとは技術パートナーシップを締結した。新規顧客の問い合わせも急増していることから、部品生産を外部に委託できる見通しが立ってきた。製造工程で冷却が必要なメーカーやデータセンターなど潜在的な顧客は多い。
従業員数は現在およそ80人。売上高は公表されていないものの、ディートリヒ社長は100万ユーロのケタ台にとどまることを明らかにした。これまでに投資家から集めた資金は計1億ユーロに上る。現在は新たな資金調達に取り組んでいる。