欧州連合(EU)の欧州議会と閣僚理事会は17日、人工衛星を利用したEU独自の通信網の構築に関する規則案で基本合意した。米国や中国、ロシアを中心に宇宙産業の分野で競争が激化するなか、2027年までに域外のシステムに依存しない、安全で信頼性の高い衛星通信網の構築を目指す。欧州議会と閣僚理の正式な承認を経て、23年にも事業に着手する。
EUは低軌道を周回する衛星を利用して、欧州独自の測位システム「ガリレオ」と地球観測システム「コペルニクス」を運用している。しかし、衛星を利用した通信システムの整備は進んでいないのが実情。危機管理や国境監視、重要インフラの保護など安全保障の観点から、低軌道上に新たな人工衛星システム「IRIS」を構築し、独自の通信網の整備を急ぐ。
欧州委員会が今年2月に発表した規則案によると、衛星通信網の整備に必要な総事業費は約60億ユーロ。このうち24億ユーロを27年までのEU予算から拠出し、残りを加盟国や欧州宇宙機関(ESA)からの拠出や、民間からの投資で賄う。
衛星通信網を民間にも開放することで、EU全域で高速インターネット接続の提供が可能になり、30年までのデジタル移行の実現に向けた「デジタル化の10年間」の主要目標を達成することができる。また、EU域外へのインフラ投資戦略「グローバル・ゲートウェイ」の一環として、アフリカや北極圏など戦略的に重要な地域にも衛星通信網へのアクセスを提供する。
EU議長国チェコのクプカ運輸相は声明で「安全で信頼性の高い通信システムは、EUの戦略的自律性の基礎となるものだ。数百の衛星からなる高速衛星通信網を構築することで、安全な通信サービスに対する域内のニーズに対応すると同時に、宇宙分野における主要プレイヤーとしてのEUの地位を確立することができる」と強調した。