ドイツ政府は二酸化炭素(CO2)分離・貯留(CCS)技術の本格投入を解禁する方向だ。現行法では制限が強く実質的にCCSを実施できない状況にあるが、同技術を利用しなければ2045年までに炭素中立を実現するという国家目標を達成できないことから、方針を転換する。経済省が作成した「二酸化炭素貯留法についての評価報告書」をもとに経済紙『ハンデルスブラット(HB)』などが報じた。
二酸化炭素貯留法(KSpG)は欧州連合(EU)指令を国内法に転換したもので、2012年に施行された。同法ではCCSが認められているものの、長期の環境リスクに対する市民などの反対が予想されることから厳しい制限が加えられている。
具体的には、貯留できるCO2の上限量が施設1カ所当たり年130万トン、国全体でも同400万トンに制限されている。また、運営事業者の賠償責任期間が施設閉鎖後40年と長いほか、CCS施設建設を州が決定する前に予定地の地理的特性や公共の利益などの観点から慎重に吟味することが明記されている。さらに、各州は州内でのCCSを禁止できるとの条項があり、メクレンブルク・フォーポマーン、ニーダーザクセン、シュレスヴィヒ・ホルシュタインの北部3州は同条項を発動している。
KSpGはCCSを実質的に禁止してきたと言える。だが、CCS抜きでは炭素中立実現のメドが立たないことから、環境政党の緑の党も容認へと転換。社会民主党(SPD)、自由民主党(FDP)との政権協定には、再生可能エネルギーをフルに活用しても不可避的に発生するCO2を大気中に排出させない技術は必要だとの一文が盛り込まれた。
具体的にはセメント、ガラス、廃棄物、化学業界などで発生するCO2を念頭に置いている。連邦環境庁(UBA)によると、国内で不可避的に発生するCO2の量は年4,300万トンに上る。20年の排出総量(7億3,900万トン)をもとに計算すると、約6%を占める。
経済省の評価報告書は計5つの科学研究報告に基づき、不可避的に発生するCO2の量を年3,400万~7,300万トンとしたうえで、45年までにこれを輸出・貯留しなければならないと指摘。CCSとCO2輸送パイプライン敷設を可能にするためエネルギー経済法を改正する必要があるとしている。
政府はCCSの本格解禁に向け、「炭素管理戦略」を来年半ばに公表する予定。与党内ではCCSへの異論が小さいもようだ。緑の党のリカルダ・ラング共同党首は8月、CCSの先進国であるノルウェーを訪問し、実情を視察した。
ただ、同党と産業界寄りのFDPではCCSに対するスタンスが大きく異なる。緑の党がCCSの利用を必要最低限度にとどめたい考えであるのに対し、FDPは化石燃料を用いた火力発電にも適用することを求めている。FDPのミヒャエル・クルーゼ連邦議会議員(エネルギー政策担当)はHB紙に、CCSを活用すれば「電力網を安定させるために今後も必要な在来型発電所を気候に悪影響をもたらすことなく使用できる」との立場を示した。与党の政策調整ではCCSをどの分野に適用するかが大きな争点となりそうだ。