日本とドイツの政府間協議が18日、東京で開催された。第1回目となる今回はロシアによるウクライナへの侵略戦争や、中国の台湾進攻懸念など国際情勢の緊迫を受け、経済安全保障に焦点を当てて踏み込んだ議論が行われた。ドイツのオーラフ・ショルツ首相は協議後の共同記者会見で、両国は地理的に9,000キロ隔てられているものの、民主主義の諸原則で結ばれていると強調。「日本はドイツにとって中心的な価値のパートナーだ」と明言した。
ドイツは長年、アジア外交を中国に重点を置いて展開してきた。市場の規模が極めて大きく将来性も高いことから、自国経済の発展につながる中国を政府が重視するのは自然の成り行きだった。日本を軽視していたわけではないが、両国間に協議すべき重要な新テーマも特にないことから政府間の往来が緩慢になっていた。政府間協議が立ち上げられたことで、日独関係は新たな段階に入った。
協議開始のきっかけは、習近平国家主席の政権掌握に伴う中国の変化である。習政権成立後の中国は産業の高度化に向けた長期戦略「中国製造2025」を打ち出した。電動車やロボットなど計10分野で世界を主導する国になる目標を設定。先端技術の獲得に向けて外国企業の買収を奨励し、中国資本による独・欧州企業の買収はこれを機に活発化した。ドイツでは産業ロボット大手クーカが中国家電大手の美的集団に買収されたことで危機感が一気に高まった。
一帯一路構想に基づく世界への影響力拡大や、中国本土での外資管理強化による企業秘密漏洩懸念、香港の民主化運動とウイグル人の弾圧などもあり、ドイツは中国に対する認識と姿勢を改めた。中国が近代化して豊かになれば西側諸国のような開かれた国に変化するという考えは幻想だったことを悟ったのだ。
この変化は2018年に成立した第4次メルケル政権で明らかになった。アルトマイヤー経済相(当時)は就任後初のアジア外遊で訪問先に日本と東南アジアを選定。経済関係が最も強い中国をあえて外し、同国に対する距離感を演出した。中国とは経済的な利害で結ばれているにすぎないと明言。日本は価値を共有するパートナーだと強調した。
原料の中国依存軽減
21年に成立したショルツ政権では対中姿勢が一段と厳しくなった。コロナ禍とロシアのウクライナ侵略で中国政府に対する不信感が強まったためだ。ショルツ首相は22年4月、就任後初のアジア外遊で日本を選び、岸田文雄首相と政府間協議の立ち上げを取り決めた。
今回の協議後の記者会見では(1)重要インフラの保護(2)サプライチェーンの強靭化と通商路の保護(3)将来のエネルギー供給の確保――という3つのテーマを話し合ったことを明らかにした。このうちサプライチェーンの強靭化に絡んでは重要原材料を安定確保するため、鉱物の採掘、精錬、加工、再利用の分野で独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と独連邦地球科学・天然資源研究所(BGR)が緊密に協業することで合意した。重要資源の探査や採掘、加工の分野で両国企業は将来的に協業する可能性がある。
ショルツ氏はさらに、鉱物資源は採掘国で加工されることが好ましいとの認識も示した。資源を持つ途上・新興国の経済発展につながるほか、中国で加工される原材料への依存度を低減できるためだ。
例えばGX(グリーントランスフォーメーション)に欠かせない希土類では、中国は埋蔵量が世界全体の3分の1にとどまるものの、精錬市場シェアは9割に上っている。同氏は名指しを避けながらも、「我々は今日、多くの原料を少数の国々、場合よってはわずか1つの大きな国から輸入している」と指摘。加工を資源産出国で行ういことはサプライチェーンの強靭性を高めることにつながるとの認識を示した。
エネルギー分野では風力発電や太陽光発電のほか、グローバル水素経済の立ち上げで日本と協業することに強い期待を示した。ドイツは日本の水素技術に高い関心を示しており、ショルツ氏は昨年の訪日に際し、千代田化工などが参加する技術組合「AHEAD」が京浜製油所に持つ脱水素プラントを視察した。
防衛分野では協力の可能性を協議していく。ボリス・ピストリウス独国防相は、軍用船・潜水艦分野の協業はあり得るとの認識を示した。