ドイツ政府の経済諮問委員会(通称:5賢人委員会)は22日、『春季経済予測(経済鑑定)』の発表記者会見で、現在世界的に広がっている金融不安は深刻な不況を引き起こすものではないとの認識を示した。投資家はリスクに敏感になり、エコノミストの間にも金融緩和の見合わせを求める声があるものの、同委はインフレ圧力が依然として強いことを指摘。欧州中央銀行(ECB)は金融引き締めを継続すべきだとの立場を表明した。
3月10日の米シリコンバレーバンク(SVB)破たんは瞬く間に世界に広がり、クレディ・スイスも19日に競合UBSによる買収の形で救済されることになった。株式を高値で売って安値で買い戻すショートポジションという投資手法をヘッジファンドなどが活発化させていることもあり、24日には財務が安定しているドイツ銀行の株価が急落するなど、市場の動揺が続いている。
こうした状況のなか、ECBが16日の定例政策理事会で政策金利を予定通り0.5ポイント引き上げ3.5%としたことに対し一部のエコノミストから批判が出ている。ドイツ経済研究所(DIW)のマルツェル・フラッチャー所長は『ヴェルト』紙のインタビューで、「欧州中央銀行の直近の利上げは最善の場合でも大きなリスクであり、最悪の場合では重大な誤りだ」と断言した。
一方、5賢人委のウルリケ・マルメンディール委員(カリフォルニア大学バークレー校教授)は、銀行間市場が機能していることや、銀行の企業向け融資が安定していることを指摘。現在の金融不安は、サブプライムローン(信用度が劣る低所得者層を対象とする住宅ローン)を証券化した高リスクの金融商品が大量に流通したことで起きた2008年の金融危機と全く異なると断言した。また、有力な金融投資家のピーター・ティール氏がSVBからの預金引き揚げを出資先と友人に助言していなければ同行は経営を維持できたと指摘。金融不安は「心理学の問題であり、そうした問題であり続ける」と言い切った。
他のユーロ加盟国に比べ低成長
今年の独インフレ率については6.6%との予測を提示した。昨年11月の前回予測(7.4%)から下方修正したものの、水準は依然として極めて高い。来年も3.0%とECBが適正水準とする約2%を大きく上回る。マルティン・ヴェルディング委員は「インフレはますます、経済の広い範囲に波及している」と指摘。生産者物価と賃金の上昇を背景に物価の上昇圧力は持続すると述べた。今後数カ月は金融引き締めを継続すべきだとしている。
今年の国内総生産(GDP)成長率に関しては、前回予測の実質マイナス0.2%からプラス0.2%へと引き上げた。エネルギーの安定供給と天然ガス価格の大幅下落を受け上方修正した。
ただ、ユーロ圏の成長率を0.9%(ドイツを除くと1.2%)と予想していることを踏まえると、同国の低迷は否めない。モニカ・シュニッツラー委員長はこれについて、◇インフレで消費者の購買力が低下している◇金利上昇などで企業の資金調達環境が悪化している◇輸出依存度の高いドイツ経済は世界経済低迷の影響を強く受ける――ためだと指摘した。賃金の上昇率がインフレ率を上回るのは早くても来年と予想している。来年の成長率は1.3%を見込む。
23~24年冬季に天然ガス不足が発生する可能性については排除できないとの見方を示した。国内の備蓄能力が冬季需要の2カ月分しかないため、寒冬の場合は備蓄が底を突く懸念がある。ガス価格が下落すると節約意欲が薄れるという事情もリスク要因とみている。