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2023/4/26

総合 - ドイツ経済ニュース

再生エネ65%以上の暖房を義務化、議会で法案修正の可能性

この記事の要約

ドイツ政府は19日の閣議で、建築物エネルギー法(GEG)改正案を了承した。暖房・温水の利用で発生する二酸化炭素(CO2)の量を削減していき、最終的に炭素中立を実現することが狙い。天然ガスなど化石燃料をメインとする暖房の新 […]

ドイツ政府は19日の閣議で、建築物エネルギー法(GEG)改正案を了承した。暖房・温水の利用で発生する二酸化炭素(CO2)の量を削減していき、最終的に炭素中立を実現することが狙い。天然ガスなど化石燃料をメインとする暖房の新設を原則として禁止するとともに、設置費用を助成することで実現する意向だ。ただ、法案に対しては野党だけでなく、政府・与党内からも批判が出ており、議会で修正される可能性は高い。

ドイツは欧州連合(EU)よりも5年早い2045年までに炭素中立を実現する目標を掲げている。このため、住宅で使用するエネルギーは同年までにすべて再生可能エネルギーへと一本化する方針。

同国で使用されている暖房の約50%は現在、天然ガスをエネルギー源としている。石油も約25%と高い。一方、電気暖房はヒートポンプと赤外線暖房がそれぞれ3%と極めて低い。化石燃料暖房に比べ費用が割高なためだ。

ヒートポンプなど炭素中立の暖房を普及させるためには政策的な誘導が必要不可欠なことから、政府はGEG改正案を作成した。再生エネの使用比率が65%未満の暖房の設置を24年1月1日以降、原則的に禁止することが柱。既存の化石燃料暖房も45年1月から使用を禁止する。

24年以降に設置可能な暖房として政府はヒートポンプ、赤外線暖房のほか、地域熱、太陽熱暖房、ハイブリッド暖房、将来の水素利用が可能な「H2レディ」ガス暖房を挙げている。また、既存の住宅ではバイオマス、バイオメタンなど再生エネガスの使用比率が65%以上の暖房も可能だとしている。

ハイブリッド暖房は、再生エネの使用比率が65%以上で、残りを石油や天然ガスで補う暖房。主にヒートポンプを用い、気温の低くヒートポンプでは発熱量が足りない日に天然ガスを併用する暖房などが該当する。

H2レディガス暖房を設置できるのは、水素供給網の敷設計画がある地区の住宅に限られる。現時点でそうした地区はほとんどないことから、H2レディ暖房は当面、実質的に選択肢とならない。設置可能な地区であっても、◇30年以降はバイオメタンなどのグリーンガスを50%以上、混合して使用する◇35年以降はグリーン水素ないしブルー水素の混合比を65%以上とする――が義務付けられており、ハードルは高い。

故障した化石燃料暖房を修理して使用することは認められる。また、修理が不可能な場合も、使用期間限定で化石燃料暖房を新設するとことが特例措置として認められる。期間は3年と短いが、将来的に地域熱の供給を受けられる場合は10年に延長される。また、非セントラルヒーティング型のガス暖房では13年間の使用が可能だ。

80歳以上の高齢世帯も化石燃料暖房の新設が認められる。ヒートポンプの設置費用はガス暖房などに比べ高いことから、予想使用期間が短い高齢世帯ではペイしないという事情を配慮した。

化石燃料暖房を再生エネ比65%以上のものに買い替える場合、費用の30%を国の補助金で賄うことができる。30年以上使用した同暖房を交換する場合はさらに20%が上乗せされる。また、使用期間が30年未満であっても修理不能な故障の場合などは10%が上乗せされる。さらに、融資支援と税控除を受けることもできる。

社会的弱者へのしわ寄せの恐れ

欧州ではロシアのウクライナ進攻とそれに伴う対露制裁を受けて、天然ガス価格が大幅に上昇した。侵攻前の水準に戻ることはなく高止まりすると予想されている。化石燃料に課される炭素税の額が年々、引き上げられていくことから、天然ガス暖房などの運営費用は時間が経てば経つほど膨らみ、経済的なメリットは薄れていく。

これらの事情を踏まえ、クララ・ガイヴィッツ建設相はGEG改正案を「社会的に受け入れ可能で経済的に実行可能であるとともに、環境的に意義のある解決策だ」と協調した。

だが、住宅所有者と借家人の間では同法案への懸念が広がっている。ヒートポンプなど法案の条件を満たした暖房の導入費用が従来型の暖房を大きく上回るのは確実であるためだ。その額がどの程度になるのか、また、それをねん出できるかどうかが分からないという事情も不安を増幅させる。ヒートポンプなどの供給量と設置職人が不足し、価格が高騰するとことも懸念されている。

今回の閣議の議事録には、GEG改正案が連邦議会で集中的に審議され必要な変更が加えられることを望むとするクリスティアン・リントナー財務相(自由民主党=FDP)の異例の見解が加えられている。

同法案は与党3党の激しい議論の末に策定された。FDPはそれでも法案内容に不満を持っている。だが、来年1月の施行日程を踏まえると、議会への上程を先送りできないことから、閣議ではFDPの閣僚も賛意を示した。

最大与党の社会民主党(SPD)も議会での法案修正に前向きだ。フェレーナ・フーバーツ院内副総務は「借家人のために(法案の)改善が必要だ」と明言。社会的弱者へのしわ寄せを可能な限り緩和する必要があるとの立場を表明した。

炭素中立の実現に反対する市民は少ない。だが、生活への悪影響が大きければ、政策への支持はおぼつかなくなる。エネルギー価格が高騰し供給不足懸念があるなかで原子力発電を全廃したことに有権者の6割が反対していることは、理想と現実の間で適切なバランスを取ることの重要性を示している。