ドイツの2大会派であるキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)は12日、政権交渉を開始することで合意したと発表した。5日間に及ぶ予備交渉で政策の大枠合意が成立したため。SPDの21日の党大会で承認が得られれば本交渉を開始して政権協定を締結する。CSUのホルスト・ゼーホーファー党首は遅くともイースター休暇(3月末から4月初旬)までに新政権を樹立したい考えを表明した。実現すれば、CDUのアンゲラ・メルケル党首を首班とする3度目の大連立政権(2大政党が樹立する政権)となる。ただ、SPD内には大連立に批判的な声が強く、成立するかどうかは微妙な情勢だ。
CDU、CSU、SPDの3党は7日から11日にかけて予備交渉を実施した。CDU/CSUが9月の連邦議会(下院)選挙後に小政党の自由民主党(FDP)、緑の党と行った政権交渉では、交渉内容が外部に大量に漏れ、合意実現の大きな障害となったことから、今回はかん口令を敷いて情報を統制。財政、年金、医療保険、難民などCDU/CSUとSPDの溝が大きい問題があったものの、最終的に合意にこぎ着けた。
社会保障分野では中道左派のSPDの要求を受けて、公的健康保険の料率を雇用者と被用者が折半負担するルールの復活を取り決めた。構造改革で導入された現行ルールでは保険料が労使折半部分と被用者単独負担部分からなり、料率は前者が14.6%(労使がそれぞれ7.3%負担)、後者が平均1.0%となっている。被用者の単独負担部分を廃止し料率を労使がすべて折半するルールが再導入されると、企業など雇用者側の負担は年に約50億ユーロ増加する見通しだ。
予備交渉では公的年金受給開始時点の年金額が現役世代の手取り収入額の何パーセントに当たるかを示す所得代替率を2025年まで現在の48%に据え置くとともに、労使が折半する年金保険料の大幅上昇を回避することでも合意が成立した。ただ、少子高齢化が今後、一段と進展するなかで所得代替率を維持するためには、財源の確保が不可欠であることから、議論を呼びそうだ。
極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進する大きな原因となった難民の問題に関しては、受入数を年18万〜22万人に制限することを取り決めた。同20万人を上限とするCDUとCSUの10月の合意にやや柔軟性を持たせた格好。ジュネーブ難民条約で定義する難民に該当しないものの、帰国すると迫害の恐れがあるとして滞在が認められている「補完的保護」の享受者が呼び寄せる家族についても、月1,000人の上限枠を設定することで合意が成立した。難民受け入れの制限を強く求めるバイエルン州の地方政党CSUにSPDが歩み寄った格好だ。
欧州連合(EU)に関しては、英国の離脱で発生するEU予算の穴を相殺するためにドイツの拠出金を増やすことや、ユーロ加盟国の安定化に向けた基金の創設を支持することで合意した。発がん性の疑いが持たれている農薬「グリフォサート」については使用を大幅に制限することを取り決めた。