独情報通信業界連盟(Bitkom)のアッヒム・ベルク会長は『フランクフルター・アルゲマイネ』紙のインタビューで、生活に必要な最低限度の金額を国がすべての市民に給付するベーシックインカムについて「試してみるだけの価値はある」との立場を表明した。経済のデジタル化が進むと、これまで人間が行ってきた作業をロボットやアルゴリズムが行うようになり、失業者が大幅に増加すると予想しているためで、ベーシックインカムの導入でボランティアなどの社会的な活動が活発化するのであれば、悪くないとみているもようだ。
Bitkomが従業員数20人以上の企業500社を対象に実施したアンケート調査によると、「デジタル化の進展で会社の存続が危ぶまれる」との回答は25%に上った。Bitkomは今後5年で340万人の雇用が失われると予想している。これは社会保険に加入義務のある就労者(3,300万人)の約10%に上る水準で、低水準にあるドイツの失業率は近い将来、大幅に高まることになる。
Bitkomはドイツの通信機器業界の雇用規模が1990年代半ばの20万人から現在は10分の1の2万人に減少していることを指摘。デジタル化が進むと今後は銀行・保険、化学・製薬など他の業界でも同様の事態が生じるとの見方を示した。歯科技工士の仕事は3Dプリンターが、税理士の仕事はアルゴリズムが行うようになるとしている。
雇用が失われる一方で、新たな雇用がどの程度、創出されるかについては現時点で算出できないとしており、労働市場の先行きは不透明だ。
ベルク会長はこうした危機感を背景に、二大政党であるキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)が政権協議で「ドイツが将来、どのようにしてお金を稼ぐのか」を全く検討していないことを問題視。デジタル化の推進に関してはマクロン大統領の下でスタートアップ企業や人工知能研究の支援を精力的に進めるフランスの方がはるかに優れているとして、両党に再考を促した。
ベーシックインカム関してはフィンランドが昨年1月に実験を開始した。ドイツではシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州政府が実験を行う意向を昨秋に表明している。