中国自動車大手の奇瑞汽車が欧州市場に進出する計画だ。陳安寧社長が『フランクフルター・アルゲマイネ』紙に明らかにしたもので、フランクフルト近郊に開発センターも開設する。欧州に進出した中国の自動車メーカーはこれまですべて撤退しているものの、同社長は定着に自信を示した。
欧州で販売するのは昨年のフランクフルト国際モーターショー(IAA)に出展したSUV「エクシードTX」で、電気自動車(EV)モデルとなる公算が高い。価格は標準装備で約3万ユーロを想定している。陳社長は「中国は世界最大の電動車市場であり、総合的にみて電動車の開発ですでに世界ナンバーワンだ」と明言。「欧州メーカーに対するこの経験上の強みを生かしていきたい」と語った。早ければ2020年に市場投入する。
欧州開発拠点をめぐってはフランクフルト近郊のラウンハイムに設置するとの観測がある。ラウンハイムは自動車大手オペルの本社所在地リュッセルスハイムに隣接しており、自動車関係の企業や人材は豊富だ。同社長は新拠点の開設予定地を伏せているものの、すでに独自動車業界の有力な専門スタッフを採用したことを明らかにした。奇瑞は同センターの開設を数カ月以内に正式決定する予定。
中国の自動車メーカーがこれまで欧州市場に定着できなかったのは、ブランドイメージが悪いほか、安全性に大きな懸念を持たれているためだ。
江鈴汽車のSUV車「陸風(Landwind)」を対象に全ドイツ自動車クラブ(ADAC)が05年に実施した安全性テストでは、「20年に及ぶクラッシュテストの歴史でこれほどひどい車はなかった」と厳しい評価が下された。華晨中国汽車が欧州市場で発売したセダン「BS6」を対象とする07年の安全テストでも「ドライバーが生き残るチャンスはゼロに近い」との酷評を受けており、たとえ安くても中国車の購入を検討する消費者はほとんどいないのが現状だ。
奇瑞のエクシードはこれまで、すべてのクラッシュテストに合格している。部品も独サプライヤーのものを大量に投入しており、10年前の中国車に比べると安全性や品質は高まった。ただ、世界最大の大型白物家電メーカーであるハイアールは欧州でブランド力が弱く同地の市場開拓に苦戦している。欧州の消費者に受け入れられるためには品質だけでなくプラスアルファの要素が必要であり、その壁を超えられるかが成功のカギを握るとみられる。