ライフサイエンス大手の独バイエルは14日、新たな「除草方法」の研究・開発に今後10年で約50億ユーロを投資すると発表した。同社製除草剤「グリホサート」の発がん性を認める判決が米国で下されるなど同剤の先行きに懸念が出ていることから、新たな製品を開発し将来の使用禁止リスクに対応できるようにする狙いだ。
バイエルは米農業化学大手のモンサントを昨年6月に630億ドルで買収した。それに伴いモンサントの除草剤グリホサートを取得した。
同剤は除草効果が高く世界的に広く投入されているものの、近年は発がん性の疑いを指摘する声が強くなっている。米国ではグリホサートの使用でがんを発症したとして1万3,400人が提訴。5月中旬にはカリフォルニア州アラメダ郡高等裁判所の陪審団がバイエルに総額20億5,500万ドルの支払い命じる評決を下した。同社の敗訴は現時点で3件。バイエルは正しい方法で使用すればがんを発症することはないとして上級審で争う方針を示しているものの、最終的な敗訴の確定ないし和解を通して巨額の賠償支払いに追い込まれる可能性がある。
グリホサートに対しては欧州でも逆風が吹いている。欧州連合(EU)は2017年11月、グリホサートの認可期間を5年延長することを承認したものの、フランスやイタリアは強硬に反対。22年以降も延長されるかは定かでない状況となっている。
ドイツ最大の需要家であるドイツ鉄道(DB)はグリホサートの使用を近い将来、打ち切る意向だ。ローラント・ポファラ取締役(インフラ担当)は経済誌『マネージャー・マガチン』に、「3万3,000キロの路線網を、グリホサートを使わずに、つまりは環境に優しく安全に運営するための研究プロジェクトを連邦環境省と共同で実施する」ことを明らかにした。具体的な方法としては熱水、電気ショック、紫外線の使用を念頭に置いている。DBはグリホサートを年65トン、使用している。
こうした厳しい状況を受けてバイエルの株価は大きく下落。株主は不満を募らせている。
農薬事業の先細りリスクを回避するためには新たな除草剤の開発が必要不可欠となっていることから、今回の投資計画を打ち出した。具体的には雑草が農薬に対する耐性を獲得するメカニズムに対する理解を深め、新たな作用機序を持つ除草剤を開発。また、農家の個別ニーズに見合った総合的な除草ソリューションを開発する。
同社はこのほか、情報通信技術を活用した精密農業を通して農薬の使用を効率化し、投入量を減らせるようにする考えも明らかにした。バイエル製農薬の投入に伴う環境負荷を30年までに30%軽減する目標だ。環境負荷軽減の測定法には環境影響指数(EIQ)という指標を用いる。