新型コロナワクチン開発の独社、米トランプ政権が買収を画策か

バイオ医薬品開発の有力企業である独キュアヴァクの買収を米国政府が画策していたもようだ。日曜版『ヴェルト』紙が報じた。在ドイツ米国大使は報道内容を否定したものの、同社の筆頭株主や独当局の反応からみて誤報ではないと目されている。トランプ大統領の「アメリカ第一」政策に合致していることから、独メディアは大きく取り上げた。

キュアヴァクはタンパク質合成のための情報を持つRNA分子であるメッセンジャーRNA(mRNA)をベースとする医薬品の開発に取り組んでいる。同社の技術を用いるとワクチン開発を大幅に加速できることから、国際的な官民パートナーシップである「感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)」は1月、新型コロナウイルス(2019-nCoV)のワクチン開発を同社に委託した。キュアヴァクはCEPIから最大830万ドルの資金を受け取り、ワクチン候補を速やかに開発する。臨床試験を初夏にも開始できる見通しだ。

新型コロナの流行は当初、中国など東アジアが中心だったが、ここにきて欧州と米国でも感染者が急増している。トランプ大統領は当初、対岸の火事とみて対策を怠ってきた経緯があり、ポイントを稼ぐために手っ取り早く「成果」をアピールしたいところだ。3日には米国人であるキュアヴァクのダニエル・メニケラ社長(当時)をホワイトハウスに招待して新型コロナ用のワクチン開発について話し合った。

メニケラ社長は先週、解任された。解任理由は明らかにされていない。

ヴェルト紙によると、トランプ大統領はキュアヴァクを買収したうえで本社を米国に移管。同社が専ら米国市場向けに新型コロナワクチンを開発・製造するようにすることを目指していたという。

この報道を受けてキュアヴァクの資本80%を握る独投資家ディトマール・ホップ氏(ソフト大手SAPの共同設立者)は、「コロナウイルスに有効なワクチを間もなく開発できた暁には特定の地域だけでなく全世界の人々に連帯的に提供することになる」と明言。米国が独占利用することは絶対に認めないとの立場を示した。また、独研究省の広報担当者は「米国へのワクチンの独占販売はあらゆる手段で阻止されなければならない」との立場を明らかにした。独経済省はそうした事態を阻止するために貿易法で同省に認められた拒否権を行使する意向だ。

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