バイエルが除草剤訴訟の和解合意を見直しも、裁判官の疑念を受けて

農薬大手の独バイエルは8日、同社の除草剤「グリホサート」を巡って先ごろ米国の裁判所に提出した和解合意の一部を原告側と共同で取り下げると発表した。合意内容に対し裁判官が疑念を表明したため。同社は声明で、裁判官が投げかけた疑問に包括的に対処していく意向を表明した。和解合意を見直す可能性もある。

グリホサートは米農業化学大手モンサントが1970年に開発した農薬。除草効果が高いことから世界で幅広く使用されているものの、リンパ腫を引き起こす疑いが持たれている。バイエルは2018年のモンサント買収に伴い同剤を取得したことから、訴訟に直面することになった。

同社は6月下旬、グリホサートを巡る訴訟で和解した。現行訴訟の原告に88億~96億ドル、今後がんを発症し同社を訴える可能性がある潜在的な原告に最大12億5,000万ドルをそれぞれ支払うという内容だ。

裁判官は同合意のうち、将来の潜在的な訴訟に関する部分に疑義を表明した。

潜在的な訴訟に関する合意では、◇グリホサートに発がん性があるかどうか、およびあるとすればどの程度の量で発症するのかを評価する専門家委員会を設置し、判断を仰ぐ◇同委が判断を下すまで将来の原告は損害賠償などを請求できない――ことを取り決めた。

裁判官はこの合意について、◇法律に基づく裁判官と陪審委員の決定権が専門家委員会によって掘り崩される恐れがある◇グリホサートに発がん性があるかどうかの因果関係が科学的に証明されていないにも関わらず専門家委が同除草剤の発がん性を否定するなど将来の原告に不利な判断を下した場合、将来の原告はこの判断の正当性に疑問を投げかけ、拘束されることを拒否する可能性が高い――と疑義を表明した。

6月の和解合意が裁判所に承認されて発効すれば、バイエルは米国の将来のグリホサート訴訟に伴う財務負担を最大12億5,000万ドルに抑制できるはずだった。裁判官が今回、疑念を示したことで、この計算は皮算用で終わる恐れが出てきた。

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