職場の安全性確保や児童労働禁止などの社会的基準がサプライチェーンで順守されるようにすることを企業に義務付ける法案の内容でドイツの3閣僚が12日、合意した。同法案は社会的基準に反する状況下で生産された原料などを調達する企業が多い現状の是正を狙ったもの。企業の責任を強く求めるフベルトゥス・ハイル労相(社会民主党=SPD)、ゲルト・ミュラー開発支援相(キリスト教社会同盟=CSU)と、企業の過度な負担を懸念するペーター・アルトマイヤー経済相(キリスト教民主同盟=CDU)が折り合いをつけた。2023年1月の施行を目指す。
争点となっていたのは(1)サプライチェーンのどの段階までの責任を調達元企業に負わせるのか(2)どの程度の規模の企業に責任を負わせるのか――の2点。
児童労働や劣悪な労働環境といった人権侵害はサプライチェーンの起点に当たる原料採掘の段階ですでに起きていることが多い。このためハイル労相などは、社会的基準の順守を徹底するためにはサプライチェーンのすべての段階に対し調達元企業に責任を負わせる必要があると主張してきた。だが、そのために必要な労力と費用は極めて大きいことから経済界が批判。今回の合意では、調達元が責任を負うのは直接取引のあるサプライヤーの段階までとすることで折り合いがついた。ただ、直接取引のないサプライヤーであっても社会的基準が順守されていないとの指摘をNGOなどから受けた場合は調査を行い、必要であれば適切な措置を講じなければならない。
同法案の適用対象については差し当たりドイツ国内の雇用が3,000人以上の企業に制限することで合意が成立した。約600社が該当する見通し。
このハードルは施行後1年で1,000人に引き下げられるが、ハイル労相らが目指していた500人に比べると経済界の負担は小さい。アルトマイヤー経済相は中堅以下の企業が対象外とされたことを強調した。
それでも経済界の懸念はなお大きく、独経済界アフリカ協会のシュテファン・リービング会長は、ドイツ企業は対アフリカ投資を見合わせるようになると批判した。キール世界経済研究所(IfW)のガブリエル・フェルバーマイル所長は、アフリカ企業をドイツのサプライチェーンに組み込むことが難しくなると指摘。アフリカ企業はドイツ企業との取引を減らし、中国やロシアなど人権を重視しない国の企業との取引を強化するようなるとの見方を示した。現地の労働条件も法案の狙いとは裏腹に悪化するとみている。
サプライチェーンにおける社会的基準順守の責任を調達元企業に負わせるルールの導入は欧州連合(EU)の欧州委員会も準備を進めており、今夏にも法案を提示する見通し。メディア報道によると、欧州委は調達元にサプライチェーン全体の責任を負わせるなどドイツよりも厳しい規制を導入する方向だ。このためドイツは今回の合意内容を、EU法に基づき厳格化の方向で修正することになる可能性がある。