ドイツのロベルト・ハーベック経済・気候相は19日から21日にかけてカタールとアラブ首長国連邦(UAE)を訪問した。ロシア産化石燃料への高い依存度を引き下げるため、エネルギー調達を多様化する戦略に基づくもので、天然ガスとグリーン水素を中東から輸入する意向だ。同相は「ウクライナに対するロシアの侵略戦争を受けてエネルギー安全保障問題は国際的な議論の中心テーマとなった」と明言。LNG(液化天然ガス)の輸入を一時的に増やすとともに、天然ガスからグリーン水素へのエネルギー転換を加速するためにカタール、UAEとの連携を強化する考えを示した。
カタールとの間ではエネルギー分野で長期パートナーシップを結ぶことで合意した。カタールからLNGを輸入するほか、再生可能エネルギー分野で協力する。カタールはオーストラリアに次ぐ世界2位のLNG輸出国。大幅な増産に意欲を示している。
ハーベック氏は「わが国はロシア産ガスを今年はまだ必要とするだろうが、将来は違う。それはまさに今始まる。耳あるものは聞くが良い」と述べ、ロシアのプーチン大統領に向けて挑発的なメッセージを送った。
ドイツにはLNGの輸入に必要なターミナルが現在、存在しない。政府は数年以内に少なくとも2カ所、設置する意向だ。ハーベック氏はこれに絡んで、通常は5年を要する設計から完成までの期間の大幅短縮に意欲を示した。
UAEとは再生エネで製造するグリーン水素の分野で協業する。今回の訪問では同行した独企業の経営陣が計4つのプロジェクトで契約書に調印した。具体的には(1)常温・常圧での安全な水素輸送を可能にする液体有機水素キャリア(LOHC)プロジェクト(2)水素と水素誘導体の輸送実現に向け化石燃料ベースの「ブルーアンモニア」(アンモニアは水素誘導体の1つ)を現地のアブダビ国営石油(ADNOC)が独企業(精銅大手アウルビス、エネルギー大手RWE、シュテアグ、GEWEC)向けにテスト輸送するプロジェクト(3)数年後のグリーン水素輸入実現に向けブルーアンモニアをADNOCが独ハンブルク港運営会社HHLA向けにテスト輸送するプロジェクト(4)独シーメンス・エナジーやルフトハンザ、UAEの再生エネ会社マスダールが合成航空燃料を製造するプロジェクト「グリーン・ファルコン」――が取り決められた。
(1)のプロジェクトはUAEから独ヴィルヘルムスハーフェン港にグリーン水素を運ぶためのサプライチェーン構築を目指すもので、ADNOC、独企業ハイドロジーニアス、ユニパーのほか、東京電力と中部電力の合弁JERAが参画する。当初はブルー水素を投入するものの、近い将来グリーン水素へと切り替える計画だ。
今回のUAE訪問では持続可能なエネルギーと水素技術利用の分野で独研究機関フラウンホーファー協会がUAEエネルギー・インフラ省と協力することも取り決められた。