自動車大手フォルクスワーゲン(VW)が中国でのプロジェクトに絡んで申請していた国外投資保険の延長をドイツ政府が却下した。ロベルト・ハーベック経済相が日曜版『ヴェルト』紙に明らかにしたもので、新疆ウイグル自治区におけるウイグル族に対する中国政府の人権侵害を理由としている。人権を理由に独政府が国外投資保険を拒否するのは初めて。同氏は「ウイグル人の強制労働と迫害に直面し、わが国は新彊におけるいかなるプロジェクトにも政府保証を提供することはできない」と明言した。
ウイグル問題を巡っては、国連のミシェル・バチェレ人権高等弁務官の新疆ウイグル自治区視察に合わせてリークされた「新疆公安ファイル」と呼ばれる中国の内部資料が西側諸国に大きな衝撃をもたらしている。同ファイルには警棒を持った警察官に囲まれてひざまずく収容者に迷彩服を着た別の警官が銃口を向ける写真や、脱走しようとする者の射殺を命じる同自治区書記の発言が含まれており、ドイツのクリスティアン・リントナー財務相は「ショックを受けた」と明言した。アンナレーナ・ベアボック外相は中国の王毅外相とのテレビ会談で、「新彊における最も重大な人権侵害についての報告と新たな証拠書類」について協議。事実関係の明確な説明を要求した。
VWは国外投資保険を計4件、政府に申請していた。同社の広報担当者はメディアの問い合わせに、政府からの回答をまだ受け取っていないとしながらも、「却下される可能性はもちろんある」と答えた。
VWは提携先の上海汽車(SAIC)と共同で2013年から新疆ウイグル自治区の首府ウルムチで完成車工場を運営している。経済発展が遅れた西部地域の開発を進める中国政府の意向を受けたもので、年産能力は5万台と小さい。それでもウイグル人迫害に加担しているとするVWへの批判は根強い。同社は新疆公安ファイルのスクープを受け、ウルムチ工場では「様々な文化的な背景と宗教上の信念」が尊重されていると強調。強制労働はサプライヤーも含めて行われていないとしている。
独経済省はVWの申請を却下した理由をメディアに、当該プロジェクトは「新彊ウイグル自治区の事業拠点と関係がある、あるいは関係する可能性を排除できない」ためだと説明した。
VWは投資保険申請が却下されても当該プロジェクトを実施するもようだ。その場合、事業に伴う財務リスクをすべて自ら背負うことになる。