フォードの独ザールルイ工場閉鎖か、スペイン工場に競り負ける

自動車大手の米フォードは22日、同社が独自開発する初の電気自動車(BEV)専用車台を用いたモデルをスペインのバルセロナ工場で生産すると発表した。同モデルをどの拠点で生産するかを巡りバルセロナ工場と争ってきた西南ドイツのザールルイ工場はこれに伴い、中期的に生産車種がなくなることから、閉鎖される可能性がある。ザールルイ工場の周辺地域にはサプライヤーが多数、集積しているため、同地では主力の自動車産業が衰退し、大量の雇用が失われる懸念が出てきた。

ザールルイ工場では現在、内燃機関車であるコンパクトカー「フォーカス」を生産している。同モデルの生産は2025年で終了。終了後に同工場で生産するモデルは決まっておらず、現状では閉鎖が避けられないと目されている。欧州事業統括会社のスチュワート・ローリー社長はdpa通信に、ザールルイ工場の閉鎖が決まったわけではないと強調。対策本部を設置し、従業員代表、地元ザールラント州政府と協議する意向を明らかにした。フォードの社内、社外に雇用の可能性があるとしている。

一方、従業員代表はバレンシア工場を選定した今回の決定をザールルイ工場の事実上の閉鎖決定とみている。ザールルイ工場の従業員数は4,600人に上る。

周辺地域のサプライヤーはエンジン関連の部品メーカーが多い。業界大手ZFフリードリヒスハーフェンは雇用規模9,000人のザールブリュッケン工場でトランスミッションを製造。競合ボッシュは同4,000人強のホームブルク工場でディーゼルエンジン関連の部品を生産している。内燃機関車からBEVへの移行が進むなか、フォードのザールルイ工場がなくなれば、地域の雇用情勢の悪化は避けられない。

ザールラント州では1960年代に主力産業の石炭が衰退するなか、フォードの誘致に成功。ザールルイ工場で1970年から車両生産が始まり、サプライヤーが集まったことから、地元経済と雇用が安定した。フォードの今回の決定で同州は60年代以来の危機に陥る可能性が出てきた。

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