VWも新疆撤退か、ウイグル人強制労働疑惑が浮上

自動車大手の独フォルクスワーゲン(VW)が中国西部の新疆ウイグル自治区で展開す
る事業から撤退する可能性が出てきた。同社出資の現地テストコースがウイグル人の
強制労働で建設されたことを示す専門家の調査結果が14日付『ハンデルスブラット
(HB)』紙の報道で明らかになったためだ。VWは報道内容を深刻に受け止めていると
したうえで、同地の合弁の今後について共同出資者の上海汽車(SAIC)と協議を開始
したことを明らかにした。様々なシナリオを検討している。新疆からは化学大手の
BASFが9日に撤退方針を表明しており、VWが追随すれば同自治区で生産事業を展開す
るドイツの主要メーカーはなくなる。
VWとSAICは新疆で合弁の工場とテストコースを運営している。同地では中国政府がウ
イグル人を弾圧していることから、VWに対しては以前から撤退要求があった。
新疆での活動を理由にVWの社債を投資対象から除外する動きが一部の投資ファンドに
広がったことを受け、同社は現地合弁工場の監査を昨年、外部機関に依頼。工場内で
の人権侵害は確認されなかった。このため、株価指数の算出など金融サービスを手が
ける米MSCIはVWを対象に出していた倫理問題での警告を解除した。ただ、同監査には
ウイグル人労働者へのインタビューが漢民族のインタビュアーによって行われるなど
の問題があり、信頼性には当時から疑問が投げかけられていた。また、同工場で調達
した部品が強制労働で生産されていないかどうかはそもそも監査の対象となっていな
かった。
テストコースを対象とした監査が行われたこともなかった。VWはこれについて今回、
同コースには様々な企業が出資しており、監査の実施は不可能だと弁明している。
トルファン市にある同コースは2019年に建設された。国営インフラ企業CRCC(China
Railway Fourth Bureau)が建設を担当した。
米共産主義犠牲者追悼財団のエイドリアン・ゼンツ上級研究員が建設に関わった企業
のネット公開文書などを調べたところ、「貧困撲滅プログラム」と呼ばれるプロジェ
クトの労働者がテストコースの建設に携わっていたことが分かった。同プログラムは
ウイグル人弾圧政策の一環をなすもの。CRCCのウエブサイトには、「精細な貧困撲滅
のイノベーションを通してプロジェクト部局は『国家統一と一家』の強い雰囲気を醸
成し、地方政府とその住民の称賛を得た」と記した18年の文章があるという。
「国家統一と一家」は新疆で中国共産党が展開するウイグル人弾圧・同化キャンペー
ンで、党員、役人、国営企業の社員が参加。参加者は例えば、2カ月ごとに少なくと
も5日、ウイグル人とともに生活し、情報収集活動を行う。国家への忠誠心を確認す
る狙いがあり、疑わしい思われる人物については当局に通報する。
テストコースの建設中に撮影された写真には軍服姿のウイグル人労働者の姿があっ
た。ゼンツ氏は、貧困撲滅プログラムで動員されたことを裏付けるものだと指摘す
る。
同氏は『フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)』紙に、「VWにはナチスの(人道
犯罪に加担した)歴史があるため、倫理的な責任は特に重い。ウイグル地区における
ような非道体制の支援を続けてはならない」と述べ、速やかな撤退を要求した。

■VWを投資対象から除外

VWに20%出資する独ニーダーザクセン州のシュテファン・ヴァイル州首相は報道内容
を憂慮すべきものだとしたうえで、「フォルクスワーゲンとその協業先のすべての事
業活動では基本的な権利・人権が順守されなければならない」との見解を表明した。
VWグループの全従業員代表であるダニエレ・カヴァロ事業所委員長も、「VWは製品と
サービスから強制労働を全面排除」しなければならないと強調した。
今回の報道には金融業界がすでに反応しており、独協同組合系の投資会社ユニオン・
インベストメントは14日、「わが社のサステナブル公募ファンドは今後、フォルクス
ワーゲンに投資できない」との声明を出した。新疆での事業継続は企業イメージだけ
でなく、資金調達の面からも難しくなりそうだ。
新疆の人権問題を巡っては、ウイグル人の強制労働で綿花が生産されているとの報道
を受け、スウェーデンの衣料品大手H&Mなどが新疆綿の不使用方針を表明したとこ
ろ、共産党の青年組織とメディアが21年に不買運動を呼びかけた。VWが撤退を表明す
ると同様の事態が起こるとの懸念がある。
独メルカトル中国研究所(MERICS)のマックス・ツェンクライン研究員はこれについ
てFAZ紙に、「10年前であれば中国のメンツを傷つけるようなことをするドイツ企業
はなかったであろうが、風向きは変わった」と指摘。「中国の経済的な立場は当時に
比べ弱まっており、BASFなどの(外資の巨額)投資に強く依存している」として、国
家主導の報復はないとの見方を示した。中国製電気自動車(BEV)の輸入制限を検討
する欧州連合(EU)と同国政府が今後、行う可能性のある交渉でVWは橋渡しの役割を
果たし得る立場にあることも報復の見合わせにつながるとしている。
今回の問題を穏便に片づけたいという思惑はSAICも共有している可能性がある。同社
はMGブランドで欧州市場の攻略を進めており、新疆問題が大きくなると販売に支障が
出かねないためだ。

■VWグループ車が米国で通関できず

新疆の人権問題に絡んでは現在、VWグループの車両が米国で通関できず港湾に保留さ
れている。ウイグル人の強制労働で作られた製品の輸入を禁止する法律に抵触したた
めだ。ポルシェ、ベントリー、アウディの計1万3,000台が該当する。『フィナンシャ
ル・タイムズ』などが報じた。
問題となっているのは制御機器に使われている「小さな電子部品」(VW広報担当
者)。同社によると、この部品の交換作業をすでに開始している。

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