VWが雇用保障協定を破棄、整理解雇が可能に

自動車大手フォルクスワーゲン(VW)は10日、ドイツ本国の従業員の雇用を保障する
協定の破棄を金属労組IGメタルに通告したことを明らかにした。経営陣は欧州自動車
業界を取り巻く環境の悪化を理由に、これまで実施したことのない国内の工場閉鎖と
整理解雇を辞さない意向を今月上旬に表明していた。今回の破棄通告はその実施の前
提となる。ドイツで雇用が最も安定していると目されてきた同社が大規模な整理解雇
を本気で検討していることは、経済の低迷に拍車をかけそうだ。
1994年から30年間、存続してきた雇用保障協定を年末付で解約する。解約後6カ月の
猶予期間があるため、来年6月末までは整理解雇を実施できないものの、それまでに
雇用を保障する何らかの新協定が締結されなければ7月1日から整理解雇が可能にな
る。グンナール・キリアン取締役(人事担当)は「新しい技術と製品に自力で投資で
きるようにするため、競争力を保てる水準にドイツのコストを引き下げなければなら
ない」と述べ、理解を求めた。
VWとIGメタルは新たな賃金協定の締結に向けた交渉を10月に開始する予定だった。雇
用保障協定の破棄を受け、両者は交渉を前倒しで開始する方向だ。従業員の間に広が
る先行き不透明感を可能な限り早期に解消したいという思惑がある。
欧州乗用車市場はここ数年で大幅に縮小した。欧州自動車工業会(ACEA)によると、
欧州連合(EU)に英国、アイスランド、ノルウェー、スイスを加えた31カ国の2023年
の新車販売台数は1,284万7,481台となり、コロナ禍直前の19年を19%下回った。コロ
ナ禍前の水準に戻る兆しはなく、業界全体で過剰生産能力を抱え込んでいる。しか
も、これまで大きな期待をかけてきた電気自動車(BEV)の分野で販売が想定を大幅
に下回るうえ、価格競争力の高い中国勢が攻勢に乗り出していることから、工場の統
廃合は避けられない状況だ。
VWのアルノ・アントリッツ取締役(財務担当)は同社の欧州販売台数がここ数年で50
万台減少したことを明らかにした。2工場分に相当するとしている。
VWは地元ニーダーザクセン州が大株主として監査役会に役員を派遣していることか
ら、従業員の立場が強く、国内工場の閉鎖はこれまでタブーだった。その自明性が大
きく揺らいでいる。
自動車業界ではサプライヤー大手のコンチネンタルとZFフリードリヒスハーフェンも
経営状況が厳しい。製造業全体に目を向けると、化学や鉄鋼などの素材産業はエネル
ギー・原料コスト高、主力産業の電機と機械も深刻な受注不足にあえいでいる。就労
者の失業懸念が強まるのは避けられない状況で、少し前まで景気のけん引車と期待さ
れていた個人消費の回復は一段と遠のきそうだ。

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