保険大手の独アリアンツがシンガポール同業のインカム・インシュアランスを買収す
る計画に黄信号が灯り始めた。同国の黄循財(ローレンス・ウォン)首相が14日、
フェイスブックへの投稿で疑念を表明したためだ。「取引の構造」を問題視してお
り、これが全面的に取り除かれない限り政府は承認しないとしている。具体的に何が
問題かは明らかにしていない。
アリアンツは7月、インカム買収計画を発表した。成長市場のシンガポールで事業を
強化し、戦略市場と位置付けるアジア・太平洋での成長を加速させる狙いがある。
完全子会社のアリアンツ・ヨーロッパが任意の株式公開買い付け(TOB)を通してイ
ンカム株を最低でも51%取得する。買い取り価格は1株当たり40.58シンガポールドル
で、51%を取得した場合は総額が22億シンガポールドル(15億ユーロ)となる。取引
の成立には当局の承認が必要で、アリアンツは今年第4四半期〜来年第1四半期の買収
手続き完了を見込んでいた。また、インカム株およそ73%を持つNTUCエンタープライ
ズは買収提案に応じ、保有株の一部を譲渡する意向を表明していた。
同買収計画に対してはシンガポール国内で批判が出ていた。インカムがアリアンツの
傘下に入ると、低所得者向けの手頃な保険商品の販売を停止すると懸念されている。
インカムは損害・事故・医療・生命保険を手がけており、顧客数は約170万人に上
る。2023年の保険料収入は37億5,000万シンガポールドル(25億5,000万ユーロ)。同
国の金融システム上重要な保険会社4社のうちの1社とされる。