米国の次期大統領にトランプ前大統領が再び就任することが確定したことを受け、
独・欧州は対応を迫られる見通しだ。「ドナルド・トランプが主導する政権では多く
のことが確実に変わる」(独ショルツ首相)ためだ。特に安全保障と経済面で強い圧
力を受けると予想されている。キール世界経済研究所(IfW)のモーリッツ・シュー
ラリック所長は「ドイツの構造危機に加え、我々が準備してこなかった貿易・安全保
障上の問題が降りかかってくるだろう」と懸念を表明した。
トランプ氏は輸入関税の引き上げ方針を打ち出している。税率は欧州連合(EU)製品
で20%、中国製品で60%とする考え。Ifo経済研究所によると、その影響でドイツの
輸出高は米国向けが15%、中国向けが10%縮小し、年330億ユーロの損失が発生す
る。中国向けが減少するのは中国の対米輸出減少のしわ寄せが及ぶためだ。財界系の
ドイツ経済研究所(IW)は、通商紛争が先鋭化した場合、今後4年間の損失額は1,800
億ユーロに達すると試算している。高率関税を受け米国への工場移転が進み、国内産
業の空洞化や雇用縮小につながる懸念もある。
欧州委員会のフォンデアライエン委員長はトランプ氏に祝意を送るとともに、高関税
の回避に向け具体的な提案を行う意向を表明した。水面下ではEU製品に高関税が課さ
れた場合に備えた対抗関税リストをすでに策定しているもようだ。
欧州の安全保障に関してはウクライナへの支援打ち切りが懸念されている。トランプ
氏は選挙戦でウクライナ戦争を24時間で終結させると豪語した。同氏のブレインは◇
前線での戦闘停止◇ロシアが占領する地区を同国に割譲する◇ウクライナを北大西洋
条約機構(NATO)に加盟させず中立国とする――という構想を示している。これはロ
シアに有利な条件であり、仮に停戦が成立しても同国は将来、侵略を再開するリスク
が高い。欧州の安全保障を一段と揺るがしかねないことから、同地の主要国にとって
は受け入れがたいものだ。
トランプ氏の当選が確実となった6日午前、フランスのマクロン大統領とショルツ氏
は電話会議を行った。マクロン氏はX(旧ツイッター)への投稿で、「統一した、よ
り強固で自主的な欧州の実現に取り組む」意向を表明した。