欧州委員会のユンケル委員長は14日、欧州議会で一般教書演説を行った。英国の離脱決定で揺れるEUの求心力を高めることを主眼とする内容で、欧州委員会が域内の景気浮揚策の柱として打ち出した大型投資計画の拡充や防衛協力の強化などを打ち出した。
同投資計画は、ユンケル委員長率いる欧州委員会が発足した直後の2014年11月に発表した看板政策。EUの信用保証と欧州投資銀行(EIB)の拠出によって、「欧州戦略投資基金(EFSI)」を創設し、インフラ整備事業を促進するという内容だ。加盟国の財政ひっ迫で公共投資が縮小する中、民間資金を活用して投資プロジェクトを推進し、景気と雇用を押し上げる狙いがある。
当初の制度設計は◇EUが補助金向け予算から80億ユーロを拠出して、160億ユーロの信用を供与し、EIBが拠出する50億ユーロと合わせて210億ユーロのEFSIを創設する◇この210億ユーロを元手にEIBが市場で資金を集め、630億ユーロまで増強する◇これを使って投資を保証し、民間企業が投資を行いやすい環境を整えることで、2015~17年の3年間で総額3,150億ユーロ以上の新規投資を呼び込む――というものだった。これまでに1,160億ユーロの投資効果を引き出した。
ユンケル委員長が発表した拡充策では、実施期間を2022年まで延長し、投資規模を2倍の6,300億ユーロに拡大することを目指す。具体的にはEUによる信用供与を260億ユーロ、EIBの拠出を75億ユーロに引き上げ、EFSIの規模を335億ユーロに増強する。
EUは経済の低成長、難民危機といった厳しい状況に直面している中で、英国の離脱が国民投票で決まり、加盟国の結束が揺らいでいる。ユンケル委員長は演説で、EUは排他的なポピュリズム(大衆主義)が台頭し、危機に陥っているとして、結束維持を呼びかけた。
防衛協力の強化も同方針に沿ったもの。EU共通部隊の発足を念頭に「欧州司令部」を創設し、軍事活動を統括する。このほかユンケル委員長は難民対策として、難民を生むアフリカや近隣諸国に440億ユーロの投資を行う計画を発表した。対象地域の経済や生活環境を改善することで、難民発生の芽をつむのが目的だ。域内の国境、沿岸警備の強化も打ち出した。