雇用主が職場にビデオカメラやレコーダーを極秘に設置できるのは、盗みなどの犯罪が行われている具体的な容疑がある場合に限られる。極秘撮影・録音は憲法(基本法)で保障された人格権の侵害に当たるからである。では、職場で問題を起こした被用者から事情を聴取するために行われた面談でこの被用者が会話を極秘に録音していた場合はどうなのだろうか。この問題をめぐる係争でヘッセン州労働裁判所が昨年8月に判決(訴訟番号:6 Sa 137/17)を下したので、ここで取り上げてみる。
裁判は公共機関に勤務する職員が同機関を相手取って起こしたもの。同職員は2016年2月20日、同僚EとFを「怠け豚」「ローパフォーマー」と罵ったうえ、Eに顔が触れんばかりに近づいた。Eが「脅しなの」と聞くと「そうだ」と答えた。
事態を重くみた上司は3月17日、同職員から事情を聴くために面談を行った。面談には従業員の代表機関である事業所委員会(Betriebsrat)のメンバーも立ち会っていた。
同職員はこの面談内容をスマートフォンで極秘に録音していた。その事実を同職員の5月末の電子メールで知った被告の公共機関は事業所委の承認を得たうえで、6月7日付の文書で即時解雇を言い渡した。
原告職員はこれに対し、録音が禁止されていることを知らなかったなどと主張し、解雇無効の確認を求める裁判を起こした。
一審のフランクフルト労働裁判所は原告の訴えを棄却し、二審のヘッセン州労裁も一審判決を支持した。判決理由で同州労裁の裁判官は、面談の極秘録音は基本法2条1項と1条2項で保障された(面談参加者の)人格権の侵害に当たると指摘。原告の勤続期間が25年と長いことを考慮しても即時解雇はやむを得ないとの判断を示した。原告には録音の意図を事前に伝える義務があったとしている。
最高裁の連邦労働裁判所(BAG)への上告は認めなかった。