病休からの職場復帰を雇用主が拒否、給与の請求権はあるか

年に6週間以上、病気休業する被用者がいる場合、ドイツの職場では職場への完全復帰に向けた措置がしばしば取られる。これは社会法典(SGB)で定められたルールで、「職場復帰マネジメント(Betriebliches Eingliederungsmanagement=BEM=)」と呼ばれる。当該被用者は本来の業務を完全に果たせる状況にないことから、勤務時間を減らすなどの配慮がなされる。

では、雇用主がBMEを拒否した場合、被用者には働いていれば得られたであろう給与の支給を要求する権利があるのだろうか。この問題を巡る係争で最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が昨年12月に判決(5 AZR 815/16)を下したので、ここで取り上げてみる。

裁判はノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州の教員が同州を相手取って起こしたもの。同教員は2007年3月から病気休業していた。治療医は段階的な職場復帰の第一弾として、09年6月26日~7月3日の期間、一日当たり3時間の勤務をNRW州当局に提案するとともに、夏休み明けの8月中旬からは本来の業務を完全にこなせるようになるとの見通しを示した。

州当局が提案受け入れを拒否したことから、同教員はBEMの一環で9月1日からフルタイムで勤務することを当局に申請した。これに対し当局は、労働が可能であることを公務医(Amtsarzt)ないし公的機関や公的健康保険の委託を受けた鑑定医(Vertrauensarzt)が証明しない限り同教員の勤務申請は受け入れられないと回答した。

これを受け同教員はフルに勤務できるとの証明書を提出した。だが、証明書を発行したのが公務医ないし鑑定医でなく掛かり付けの医者であったことから、当局は勤務申請の受け入れを改めて拒否した。

原告教員はこれを不服として、勤務していれば支給されていたであろう給与の支払いを求めて提訴した。

二審は原告勝訴を言い渡したものの、最終審のBAGは逆転敗訴判決を下した。判決理由でBAGの裁判官は、雇用主にはBEMを必ず受け入れなければならない義務がないうえ、BEM期間中の勤務の対価は雇用主でなく健康保険が負担するものだと指摘。被告NRW州に給与支払いの義務はないとの判断を示した。

上部へスクロール