被用者が自宅から勤務先のオフィスなどへと移動する時間と、そこからの帰宅に要する時間は勤務時間とはみなされない。被用者個人の利益のための時間とみなされるからである。
一方、自宅から直接、外勤先に向かう被用者の場合は事情が異なり、各日の最初の仕事現場への移動時間と、最後の仕事現場から自宅への移動時間が勤務時間扱いとなる。営業活動のための移動とみなされるからである。つまり移動の起点と終点が自宅か勤務先かの別を問わず、勤務先以外の仕事場へと移動するための時間は勤務時間となるわけである。これについては最高裁の連邦労働裁判所(BAG)が2009年4月22日の判決(訴訟番号:5 AZR 292/08)で明確な判断を示している。
外勤社員の移動時間が勤務時間であるということは、その時間に対し給与なり手当を支給しなければならないことを意味する。この移動時間の報酬を巡る係争で、BAGが4月の判決(訴訟番号:5 AZR 424/17)で判断を示したので、ここで取り上げてみる。
裁判はエレベーターのメンテナンス業務を行う外勤社員が勤務先の企業を相手取って起こしたもの。同社が属する業界の労使協定では、各日の最初の仕事現場への移動時間と最後の仕事現場から自宅への移動時間に対し一律の額の手当を支給することが取り決められていた。これに対し原告社員は、これらの移動時間に対し時間の長さに応じた給与を支給するよう要求し、提訴した。
原告はBAGを含むすべての審級で敗訴した。判決理由でBAGの裁判官は、移動時間に対する報酬のルールをどのようなものにするかについて、労使協定を取り決める労働組合と雇用者団体には大きな裁量が与えられていると指摘。被用者に支払う給与の総額が法定最低賃金を下回らない限りにおいて同報酬ルールを自由に取り決めることができるとの判断を示した。
原告は月給が4,376ユーロに達し、法定最低賃金(2016年時点で1時間8.5ユーロ)を大幅に上回っていたため、業界労使の取り決めに問題はないと言い渡した。